プロローグ 誕生
第1話
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
とある病院の分娩室。そこで、一人の女性が出産の時を迎えようとしていた。
結婚して五年、望むに望んでようやく授かった命。しかも、その数は二つだ。彼らを無事に産む事が自分に課せられた最大の務めだと認識した彼女は、過剰なまでに己の体調管理を徹底して過ごした。
(どうか、この子達が私の中で無事に育ちますように。どうか何事もなく、元気な姿で生まれてきますように……)
陣痛が起こった日は、あいにくの空模様だった。朝から分厚くて真っ黒な雲が空いっぱいに立ち込めており、彼女が救急車でかかりつけの病院に運ばれた時にはどしゃ降りの大雨が地面を幾度となく叩き付けていた。
初産という事もあってか、陣痛が始まってから十時間以上。分娩室に入ってからもそれなりに時間が経ったが、彼女の子供達が生まれてくる気配は一向になかった。ただひたすら、大雨が激しく吹き始めた風と一緒になって窓を叩く音が耳障りなほどに響き渡る。
バババババババッ!
そんな激しい音の中で、立ち会った担当医の声が聞こえてきた。
「おかしい、何故生まれてこないんだ……?」
えっ……?
彼女は自分の耳を疑い、汗だくの顔を彼の方に向けた。
「槙村(まきむら)先生……? どうかしたんですか?」
「紫藤(しどう)さん」
担当医が真剣な表情で見つめ返してきた。
「これ以上長引くと、あなたも赤ちゃん達も危険です。帝王切開に切り替えますが、よろしいですか?」
一瞬、嫌だと思った。長い不妊治療を経た上で臨む出産。できる事なら自力で産んで、子供達を抱きしめたい。だが、自分のわがままを通している場合ではないと考え直した母親は、「お願いします」と首を縦に振った。
小一時間後、帝王切開手術は無事に行われ、引きずり出されるような形ではあったが、母親の子宮から双子の赤ん坊が無事に誕生した。
しかし。
「うっ、これは……!?」
最初に双子を取り上げた担当医の顔色が明らかに変わった。
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