第61話
「さあ、ここだ!遠慮なく入った入った!」
この大学は、主だった教室や研究室が連なるA棟に、やや小規模でサークルなどの部室が多く見られるB棟――これら二つの校舎から成している。
だが、長谷部はそのどちらへも行かず、B棟の外回りを時計の針のようにぐるりと回っていくので、不思議に思いながらも菊池はなすがまま後をついていった。
そうやって辿り着いた場所は、ちょうどB棟の真裏に当たる位置であり、そこにはプレハブで造られた建物が一つ、ぽつんとあった。
いや、建物と呼べるほど立派なものではなかった。小屋というのも難しいかもしれない。下手すれば、物置だ。
何故ならば、使われているプレハブ自体が相当古いのか、何だか見た目が非常に粗末だ。一階建ての平屋状な上に、屋根の所々もかなり傷んでいて、春特有の強い風に煽られるたびに、何だかカタカタと音を鳴らしていた。
そんな物置もどきへのドアの前に立ち、長谷部は意気揚々とドアノブに手をかける。だが、少し錆びついているせいで開けるのにコツがいるのか、なかなか回ってくれないドアノブに苦戦している彼を見て、菊池の口から思わず小さな息が漏れた。
(おいおい。これじゃ、ちょっとした台風とか来たら、簡単に吹き飛んでしまうんじゃねえの…?)
そんな事を考えていたら、案の定、くるりと振り返った長谷部が眉間にシワを寄せた顔をずいっと近寄らせて、何とも低い声を出した。
「まさかとは思うが、菊池。お前、俺達の聖域を『物置みたいでボロくせえ』だの『すぐに壊れそうだな』だの考えてちゃいねえよな?」
「ええっ!?そんな、まさかでしょ!」
ほんの小さなため息と一緒に心の声まで吐き出してしまっていたのだろうかと、菊池は懸命に首を横に振る。
そんな必死な様子の後輩を見て、長谷部は念押しするように言った。
「言っとくが、今さら約束の反故は受け付けねえぞ?男なら腹をくくれよ」
「分かってますって。大丈夫っすよ、長谷部先輩」
そう答えて苦笑しながら、菊池は彼と交わした約束の事を思い出していた。
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