第二章 菊池 勝
第59話
「…うお~~っ!ついに来たぜ~~!夢にまで見た、キャン・パス・ライ・フ~~~!」
所々に植えられた大きな桜の木が、まばゆいほどの満開の花を咲き誇らせる三月末日。一人の青年が、とある大学の正面玄関前で両腕を空に向かって突き上げながら吠えていた。
青年の名は、菊池 勝といった。今年、この大学に入学する事が決まっている一回生であり、あと半月もすれば十九歳になる。
…にもかかわらず、さきほどからまるで子供のように大声で吠えたり喚いたりしているので、彼の横を通り過ぎていく在学生達の目はやたらと白い。中には「あんなのが来るから、うちの偏差値は上がらないんだよな」とぼやく者さえいた。
そう。おせじでも、ましてやへりくだっている訳でもなく、菊池がこれから新たな生活の基準としようとしているこの大学の偏差値は低い。
ド田舎と呼ぶにふさわしい地方にあり、規模もさほど大きくない。特に著名人などを輩出した事もなければ、在学生が何かしらの賞賛を得るような業績を残した訳でもない。自慢にできる事など、創立年数の長さくらいだ。
それでも、菊池は大学生になれたというだけで、充分嬉しかった。
どういう訳か、高校三年になってから成績が一気に下降していき、月に一度の頻度でやってきた模試も、偏差値があまりにも低いと言われているこの大学でさえ入れるかどうか怪しい判定ばかりもらってきた。
いっそのこと、専門学校に進路を切り替えたらどうだろうかと、当時の担任が憐れみにも近い提案を出したのは、一学期終了間近の事。だが、菊池はこの時きっぱりとこう言い切った。
「嫌です。俺、学校の先生になりたいんで!」
何で教職を目指そうと思ったのか、今となってはよく分からない。
給料も休日も安定した地方公務員サイコ~!といううわついた考えなどないといえば、それは当然ながら大嘘になる。
実際、子供にいろんな事を教えつつ、たくさんの業務をこなさなくてはいけない教職がどんなに大変かという事は、これまでの担任を見てきて、何となくだが肌で感じていた。
そのはずなのに、おまけにこんなに最悪な成績でしかないのに、どうして先生になりたいと思えるのか…。
その理由を尋ねられてもうまく返答できなかった菊池に、担任は「ふざけるな」と叱り飛ばした。
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