第58話



「皆で、妹尾君へのお別れの寄せ書き書こうよ」


 妹尾が死んだと聞かされた次の日の放課後。帰りのホームルームが終わってクラスの皆が教室を出ようとする前に、恭子が大声でそう言い放った。


 恭子ならそう言い出すかもしれないって、何となく思ってた。妹尾の家族から「密葬で送り出すので参列は遠慮してほしい」なんて伝言があったみたいで、あたし達は妹尾に会わずじまいでサヨナラする事になったから。


「はぁ~?葬式に来るなって言われてんのに、そんなの書いたところでどうやって渡すんだよ?」


 島本がいかにも超面倒くせえって言いたげな顔してる。逢坂達四人もそれぞれ目配せしたり頷き合ったりして同意を確認してるっぽいし、他のクラスメイトも何だか乗り気じゃなさそうで。


 かくいうあたしもあの一年の図書室の時以降、まともに妹尾と話してこなかったから、正直何を書いていいか分かんない。それでも、恭子は負けなかった。


「寄せ書きは、後で妹尾君の事故現場に持ってって置いてくる。そしたら、いつかきっとご家族の目に留まるよ。お葬式には行けなかったけど、クラスの皆で妹尾君を送り出すんだって気持ちだけでも届けようよ、ねっ!?」


 恭子の熱弁に皆が根負けしたような形になって、その後三十分もしないうちに寄せ書きは完成した。絶対に皆が書いてくれるだろうって信じて色紙を用意していた恭子は、本当に妹尾が好きだったんだなって今なら思える…。


 クラスの大半が書き終えた頃になって、あたしの順番が来た。皆、超月並みっていうか「安らかに眠って下さい」とか「今までありがとう」とか書いてあったけど、その中でやたら目を引く一文があった。


『勝手にあの世に行きやがって!まだまだこれからだってのに、死に逃げてんじゃね~よ!逢坂 島本 三崎 小西 徳井』


 この汚い字は、絶対に島本だ。一人ずつ書いてって恭子は頼んでたのに、何であんた達こんな時までつるむかな?連名にするって、いくら何でも適当すぎじゃ…。


 途中までそう思ってたんだけど、何だか急に変な気分になった。


 何だろ、これ。理由はわからないけど、妹尾は自殺だったらしいって噂が流れ始めてたから、普通に見たら、「人生まだまだこれからなのに、さっさとあきらめて死ぬなんて!」という意味だと思うんだけど…。


 何だろ、別の意味があるような気がするのは、あたしの気のせいなのかな…?


 結局、あたしはそれを気のせいだと思う事にした。そして、逢坂達五人と同じ意味のつもりで、こう書いたんだった…。


『あたしの事を友達だとか言うだけ言っといて、何勝手に死んでんのよ!妹尾の弱虫!悔しかったら生き返って文句の一つも言ってみろってのよ、このバカ!大山未知子』



第一章 大山未知子(完)

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