第53話

『7月16日


今日ほど、学校に行ける事が楽しみだと思った日はない!

今日から、また父さんと会えるんだから!また父さんと話をする事ができるんだから!


自分でもかなり舞い上がって登校したら、さっそく職員室の近くの廊下で父さんとすれ違う。

その時の父さんの顔ってきたら!おかしくって、口元がぴくぴくしちゃったじゃないか(笑)


普通に「おはようございます、菊池先生」って言ってから、僕はすれ違いざまに言ってやった。

僕達が親子だって事は、学校の誰にも秘密だよって。

父さんの仕事に支障が出るかもしれないし、何より秘密があった方が面白いからね!

誰にも内緒の、僕と父さんだけの秘密。

うん、これはもう最高に面白い!』



『7月17日


昼休み、弁当を食べた後、こっそり職員室を覗きに行った。

父さん…今時、日の丸だけの弁当ってありえないでしょ?

放課後、それをちょっとからかったら、母さんのごはんはおいしかったなってぼやいてた。

今でもそう思うなら、別れなきゃよかったのに…。』



『7月18日


今日も昼休みに職員室を覗きに行ったら、今度は父さんの机の上が弁当箱で溢れかえってた。

放課後に、どうしたのって聞いてみたら、たまに何人かの女子生徒にもらうんだって照れくさそうに言ってた。

「でも、やっぱり一番うまいのは母さんのごはんだな」

そう言いながら、父さんは何だか遠い目をしてた…。』



『7月19日


今日は土曜日だから、父さんに会えない。さすがに学校の外で会ってるところを、誰かに見られたらまずい。


今日は一日、母さんの仕事の手伝いをしていた。

整体院を始めた頃はちょっと不安がっていた母さんだけど、口コミっていうものは時には本当にありがたいもんなんだね。

母さんの整体師としての評判はあっという間に近所中に知れ渡り、たくさんの患者さん(それともお客さん?)が来てくれて。母さんはとても楽しそうに仕事をしている。


父さんと別れる時の母さんは怒っているか、つらそうに顔をゆがめてるかのどっちかだったから、今の母さんの顔、僕は大好きだ。


だから、母さんのそんな顔をこっそり写メで撮って、父さんにメールしてやった。

父さん、今頃どんな顔をしてるかな?(笑)』

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