第52話

『7月15日


どうしよう、どうしよう、どうしよう!

ついに、この展開を迎えてしまったっていうか…。

学校の廊下で、とうとうあの人に会っちゃった!



昼休み、何の気なしに廊下を歩いていたら、あの人が向こう側の方からゆっくりやってきた。

大山さんとの事で油断してたから、心の準備もなしに突然の鉢合わせっていうこの形は、僕にはまさに青天のヘキレキ(漢字難しい…)だった。

あの人にとってもそれは同じだったみたいで、僕を見て、ものすごくびっくりしていた。何でここにいるんだって聞きたそうにも見えた。


立ち止まったまま、こっちをじい~って見てくるもんだから、思わず目をそらしちゃった上、足が勝手に逃げ出そうと動き出した時は本当に焦った!


ここで逃げたら意味ないじゃん、逃げるな僕!


…何度、心の中でそう叫んだかなぁ。

でも、そのおかげで勇気が出てきて、あの人に声をかける事ができた。

ものすっごく他人行儀な開口一番だったけど、あの人はそれにきっちり応えてくれて。


嬉しかった、嬉しかった、ものすっごく嬉しかった!

空気みたいな僕を、あの人が認めたくれた。どんなに長い間離れていても、やっぱりあの人は…僕のたった一人の父さんなんだ。



どうしよう、どうしよう、どうしよう!

明日からいったい、何を話そう!田舎のおばあちゃんの事?中学時代の事?それとも…ああ、何から話していいか迷うよ。



あ、そうだ。

今日の事は、母さんにはしばらく内緒にしておこう。

やっと、仕事が順調になりだしたんだ。また変に勘ぐられて、今のいいペースを乱してやりたくないし。

当分の間、父さんと男二人だけの付き合いをさせてもらおう。



明日から、また父さんと会える…。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る