第50話
『7月13日
この頃、放課後になってもすぐ家には帰らないようにする事が増えた。
あんまり早く帰ると、母さんが心配するんだ。「ずいぶん早かったのね。友達と一緒に帰らなかったの?まさか、学校で何か嫌な事でもあったの?」とかなんとか…。
僕の母さんは、何故かそういう事には敏感だ。おかげで僕は、心の中まで空気になってしまったんじゃないかって、ものすごく不安になる。
そんな気持ちを少しでも追っ払いたくて、僕は学校の図書室に閉館時間まで過ごすようになった。
今日も、僕はいつものように図書室に向かった。
放課後の図書室は、本当に落ち着く。昼間、皆がワイワイと賑やかにしている教室の中に一人でいると、何だか急に押しつぶされそうな感覚を味わってしまうんだけど、ここなら水面に浮かぶ木の葉みたいに穏やかな気持ちになれるんだ。
そんな気持ちで「山月記」を読んで過ごそうと図書室の中に入ったら、びっくりした。目の前に、大山さんがいたから。
ちょっとあれな書き方になっちゃうけど、大山さんって図書室に用事なんかない人だと思ってた。
休み時間はいつも瀬田さんって子とおしゃべりしてる事が多いし、たまに何かの雑誌を持ってきたりするけど(校則違反だと思う)、写真しか見てないって感じだったし。
だから、たくさんの本に埋もれそうになって、何かの調べものをしてるふうな大山さんの姿はものすごく新鮮っていうか…とにかく、すぐ近くで見たくなって。
それに、これはリベンジだって思った!
一学期の始めの、ソフトボールの時のリベンジ!
あの時うまく言えなかった事を謝らなくちゃ。誤解させただろうから、きちんと弁明しなきゃ。それから、足の具合の事もちゃんと聞かなくちゃ…。
そう思ってたのに、結果は見事に惨敗。
たぶん、かえって大山さんを怒らせた。何だよ、あの変な言い方。おまけに、最後にまた「山月記」に話を持っていっちゃったし。僕は回し者か!
せっかくのチャンスだったのに…。
もう、僕は一生このままなのか…。
僕のバカ!
バカバカバカバカバカバカバカバカ!!』
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