第49話



『5月1日


今日は、僕にとっての最悪の記念日になった。

生まれて初めて、学校に行きたくないって思ったんだ。朝っぱらから。

穴があったら入りたいって言葉をよく聞いたりするんだけど、昨日の事を思い出すたび、そんなもんじゃすまされないって心から思う。自分の器の小ささが、情けない。


行きたくないって思ってても、実際にそれを行動に移せば、僕の場合、嫌でも母さんに気付かれる。そして、これでもかってくらいに心配をかけさせてしまうんだ。

それだけはダメだと思って、何とか重い身体を動かして学校に行ったけど…やっぱり、昨日で僕のクラスの立ち位置は揺るぎないものとなってしまってて。もう、誰も僕と目を合わせようともしなかった。


どうして科学を専攻している研究者達は、とっととさっさとタイムマシンを開発してくれないんだろう。もしタイムマシンがあるのなら、僕は昨日に戻りたいよ。』




『5月2日


明日から、ゴールデンウイークだ。

振替休日も含めると、五日間も学校がお休みになる。

放課後、教室を出ようとした時、逢坂君と島本君が「皆でどっかプチ旅行しねえか?」なんて話で盛り上がっていた。いいなぁ…。


家に帰ったら、母さんが「ゴールデンウイークはお友達とどこか遊びに行くの?」って聞いてきたから、ものすごく焦った。

高校生活を一ヵ月も過ぎて、友達はゼロだよだなんて心配性の母さんにはとても言えなかった。自業自得なんだから、仕方ないんだけど。

だから、ものすごく下手くそな嘘をつくしかなかった。』




『5月3日~7日


この五日間、僕は母さんと一緒に、母さんの実家がある田舎に行っていた。

当然だけど、学校の知り合いとは誰一人会わないですんだ。

とても有意義でとても寂しいゴールデンウイークだった…。


また明日から、学校で一言もしゃべらない記録を何日更新していくかの日々が始まるのかな…。』




『5月8日~7月12日


僕の空気化現象は、この期間中、ずっと続いた。

最近、ものすごく不安になる。

僕は、本当にこの世に存在している人間なのかって。実は、母さんにしか見えていない幽霊か何かなんじゃないかって。

あの人に相談したい気持ちが膨れ上がって、よく職員室の前まで行ったけど…最後の一歩が踏み出せなくて、結局引き返してばかりだ。

誰か、僕の存在を認めて下さい…。』

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