第46話

『4月8日


今日から、本格的に高校生活が始まった。

でも、その初っ端から結構な問題に僕は遭遇してしまった。

昨日、入学式が始まる前に、昇降口に貼られていたクラス分けの名簿表を見たんだけど…ものの見事に、知ってる人間の名前が一人もいなかった。

当然といえば、当然か。

僕の中学から美里第一高校に進学したのって、僕一人だけだもんな。

正直、本当に困ってる。

ただでさえ僕は(母さんいわく)小さい頃から人見知り激しくて、周りの人と打ち解けるのに相当時間かかるんだ。

実際、中学の時も本当に苦労した。それでやっと何人かと話せるようになったのに、皆バラバラの高校へ行っちゃったし。

困ったなぁ、また最初からやり直しだよ…。』



『4月9日


自分でも、びっくりする。

今日一日、母さん以外とは誰ともしゃべらなかった。

今朝、一年一組の教室に入ったら、もうクラス中の皆がいくつかのグループを作っちゃってて、僕一人が完全に出遅れた事を思い知らされる。

皆、ものすごく明るく楽しそうにおしゃべりしてて、ここで僕が「おはよう」なんて言って話を遮っちゃったら悪いような気がした。何にも言わずに、自分の席に座って、気が付いたら昼休みになってて、そしてあっという間に放課後になってた。

昼休みも放課後も、皆が楽しそうにおしゃべりしてた。邪魔するのが悪い気がして、「バイバイ」も言わずに教室を出た。

校舎を出る前に、職員室に寄ってみたけど、あの人はトイレにでも行っていたのか見つけられなかった。ちょっとだけ、残念。

家に帰って、母さんに「ただいま」っていう声が少し掠れてるような気がして、焦った。』



『4月10日


今日も、昨日と何も変わらなかった。

母さん以外とは、誰ともしゃべらなかった。

話してみたいって気持ちはもちろんあるんだけど、どうやっていいのか分からない。皆の邪魔をするのも悪いし、そもそもいい話題ってものも思いつかない。

困ったなぁ、どうすればいいんだ?』



『4月11日


今日も誰ともしゃべらなかったし、学校の中では声も出さなかった。

こうなったら、何日連続で学校内で声を出さずにいられるか記録していこうかな(笑)


おっと、書き忘れ。

放課後、廊下であの人の事を話している二年生二人とすれ違う。

…よかった。あの人が、生徒に好かれているいい先生で。』



『4月12日~4月30日


この期間、僕は学校で一言もしゃべっていない。

まるで、空気みたいだ。』

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