第41話

「少しは、落ち着いた?」


 そんな声と共に、あたしの目の前に一本の缶コーヒーが差し出される。あたしがゆっくりと顔を上げてみれば、さっきの若い刑事が苦笑いとも取れるようなビミョーな微笑みを浮かべて、あたしのすぐ側に立っていた。


 あれから、あたしはすぐに美里警察署の中にある仮眠室に運ばれた。菊池先生が人を殺したという話を、この若い刑事から聞かされた直後からの記憶がないから、たぶん貧血を起こして倒れたんだと思う。


 そういえば…あのニュースを見てから、ほとんど何も口にしていなかった。朝ごはんくらい、ちゃんと食べてくればよかったな。


 ベッドの上で上半身を起こしていたあたしは、若い刑事が差し出してきた缶コーヒーを機械的に受け取る。でも、缶の表面に書かれてあった『ブラック』という文字に、思わず「ゲゲッ!」と言ってしまった。


「ヤダ、何これ」

「えっ!?何かマズかった?」


 ベッドの横にある簡易なパイプ椅子に腰かけ、同じものを飲み始めていた若い刑事が慌てた声を出す。あたしは、大げさなくらい大きな溜め息をついてから答えてやった。


「気を利かせてくれたのは嬉しいけど、あたしコーヒーは微糖じゃなきゃ嫌なの」

「え~?微糖くらいでいいなら、ブラックでもかんべんしてくれよ」

「お気持ちだけ、ありがたくもらいます。刑事さん」


 そう言って、あたしが缶コーヒーを若い刑事のおなかのあたりに突き返してやると、彼は今度こそ本物の苦笑いを浮かべた後で、「俺、中村っていいます」と名乗ってきた。


「君の名前は?」


 こっちをじいっと見つめてくるその目は、やっぱり刑事っぽい。若い刑事――いや、中村さんのそんな視線からまるで逃げるみたいに、あたしはふいっと目をそらしてから言った。


「…大山です。大山未知子」

「瀬田さんと菊池さんとは、どんな関係だったの?」

「さっきも言ったでしょ?恭子は大事な親友で、菊池先生はかけがえのない恩師よ。それなのに…」


 今でも、やっぱり信じられない。いったい、何がどうなって、今のこんな状況になってるっていうの。皆に、いったい何が起こったっていうの…!?


「ねえ…」


 目をそらしたままなのは情けなかったけど、あたしはどうしても聞き出したいと思った。だから、中村さんに聞いた。

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