第40話

次の日の午前八時過ぎ。あたしは朝食もとらずに、恭子と菊池先生が拘留されているっていう美里警察署の前に立った。


 元々、いろんな不祥事が浮き彫りになりつつある警察はあんまり好きじゃなかったんだけど、今回の事でますます嫌いになった!ふざけんじゃないわよ、誤認逮捕するなんて!!恭子や菊池先生が人殺しなんてできるはずないじゃん!!


 自分でも分かるくらい鼻息を荒くしながら、あたしは美里署の入り口をくぐって、すぐ正面にあるカウンターに向かって噛みつくように怒鳴ってやった。


「ちょっと!!今すぐ瀬田恭子と菊池先生を釈放してよ!!こんなの、警察の横暴よ!!」


 もしかしたら、美里署の周りをマスコミがうろついていたかもしれなかったけど、そんなの構わなかった。いや、むしろうろついてほしかったかも。そして、もしも何かインタビューされる事になったら、もっと大声で言ってやる。二人は無実です。警察の横暴で誤認逮捕されてるんですって!


 でも、あたしが一分も騒がないうちに、何人かの刑事っぽい男の人達がどかどかとした足音を立てて駆け寄ってきて、あたしの周りをぐるりと取り囲んだ。


 その中で、一番若そうな男の刑事が息を切らしながら言ってきた。


「き、君…こんな所で、何騒いでんの!?ちょっと困るから、やめてくれないかな?」


 他の刑事はそれなりにおじさんばかりだったし、目力だけでもちょっと怖いものがあったけど、この若い刑事は何だか頼りない感じがにじみ出てて、少なくともあたしがビビる要素は全然なかった。だから、あたしはそいつをじいっとにらみつけながら言ってやった。


「困ってんのはこっちの方よ!親友と恩師を無実の罪で逮捕されてんだから!!あんた達、恥をかく前にさっさと二人を釈放したらどうなの!?二人を返して、会わせてよ!!」

「いや、それはできないよ」


 若い刑事は、意外なほどきっぱりと言い返してきた。「何で!?」とさらににらみつけるあたしに、彼は一度深呼吸をしてからこう答えた。


「瀬田恭子さんには、会わない方がいい。たぶん、もう君の知ってる彼女じゃない」

「どういう意味よ、それ!」

「ひどく錯乱していて、まともな会話ができる状態じゃないんだ。たぶん、このままずっと…」


 他のおじさん刑事たちも、それぞれが目を伏せたり、ほんの少し肩を震わせたりしながら、ゆっくりと頷く。あたしは頭の中で、いつも優しく笑ってくれていた恭子の顔をいくつも思い浮かべた。


「嘘、そんなの嘘だよ…」

「それに」


 と、若い刑事が間髪入れずに続けた。


「菊池 勝さんの送検と起訴は時間の問題だ。何せ、俺の目の前で人を殺したんだから…」


 そう言った彼の目は、とても悲しそうに細められていた。

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