第39話



 成人式が終わって、二週間かそこらが経った日の夕方の事だった。


 八日後に控えた採用試験の最後の調整をしようと、図書館から借りてきた参考書の束を手にアパートの部屋に戻ってきたあたしは、ふと何気なくテレビを点けた。


 しんと静まり返った部屋が寂しかったからとか、特に見たい番組があったからとかいう訳でもない。むしろ、何て事ないしぐさの一つみたいなものだった。


 それなのに、リモコンをソファの上に放り投げた後、冷蔵庫の中の牛乳を飲もうとしてテレビに背中を向けていたあたしの耳に飛び込んできたニュースは、今まで生きてきた中で一番信じられないものだった。


『…において、若い男性の遺体が発見されました。持っていた身分証明書などから、身元は…であり、近くの町に住む逢坂健一さん二十歳と分かりました』


 たまたま映ったのは、この辺も含めて、一部の地方でしか流れないあるローカルニュース番組。美形とも愛嬌があるとも言えない普通のルックスのアナウンサーが淡々とした口調で読み上げているのは、あの逢坂が死んだっていう事で。


 ううん、逢坂だけじゃない。逢坂の相方的存在だった島本も、バラバラに切断された遺体で発見されたって事まで、そのアナウンサーの口から語られた。


 な、んで…?どうして、あの二人まで…。


 三崎君のお通夜が終わった次の日に、あたしはこっちに戻ってきた。それからの約二週間、あたしのスマホにはお母さんからのメールがひっきりなしに届いていた。


 その一番最初のメールは、小西の死を知らせるものだった。


 『詳しい事はよく分からないんだけど』という前置きが置かれたお母さんのメールには、小西は彼の家よりさほど離れていないアスファルト道路の中で発見されたとあった。


 冗談やめてよ、と素直に思った。だって、あの辺はあたし達が小学校を卒業する頃にはすでに舗装が整ってた道。あんな堅いアスファルト道路の中に小西が埋められていたなんて、そんなのどう考えてもおかしいじゃん。


 何度もそう考えて数日が過ぎた頃、お母さんからのメールがまた届いた。今度は、徳井君の死を伝えるものだった。奥さんと一緒に住んでるアパートのお風呂場で、溺死したって…。


 そして今、あたしの目の前で、逢坂と島本が死んだってニュースが流れている。しかも、二人を殺したっていうのが…。


『警察は、その場にうずくまっていた瀬田恭子、同じく二十歳を殺人の容疑で逮捕しました』


 …ふざけんじゃないわよ、どうして恭子が逢坂と島本を殺さなきゃいけない訳!?


 完全に頭に血が昇ったあたしは、採用試験の事もテレビの電源を切る事も忘れて、財布とスマホだけを持って部屋を飛び出した。


 お母さんからの新しいメールが届いたのは、美里に向かう新幹線の中での事で。そのメールには、菊池先生も殺人の容疑で逮捕されたというものだった。

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