第37話

そこにいたのは、一人の女だった。


 年は…多分、菊池先生とそんなに変わんない。でも、見るからにとても不気味な感じだった。


 まずは、すらりとしているというにはあまりにも程遠い体型。何か、限界まで痩せ細ってるって言った方が近いくらいガリガリだ。真冬だから生地の厚いトレーナーと長いスカートを身に着けてはいるけど、その袖口と裾から見えてる手足までしっかり骨ばってる。


 背中まで伸びている髪は、ヘアスプレーをかけるどころかブラッシングすらしてないのか、かなり傷んでボロッボロ。好き勝手にあちこち盛り上がってる所が、冬の冷たい外気でわずかに揺れていて。


 トドメが、その顔。夜中の屋外だってのに、顔色が尋常じゃないってくらい青白い事が一発で分かる。窪んだ両目がぎょろぎょろとこっちを見ていて、深いクマをより際立たせてた。


「ねえ、そこで何をしているの…?」


 女が、もう一度尋ねてきた。よく見ると、その両手には何かノートみたいなものが抱きかかえられている。


 少し猫背のような格好で、いつまでもこっちを見据えてくる女。あたしは気味悪さを何とか押し殺し、小さな声で返事をした。


「あ…。と、友達のお通夜の帰りにここを通りかかって。そしたら、ここでも別の子が死んじゃったんだって事を思い出したから、お参りっていうか…」


 そこまで話して、ちょっとおかしいっていうか…ふと疑問に感じた。


 何で、初めて会った通りすがりのおばさんに妹尾の事まで話したんだろうって。別に何も言わなくてもよかったじゃん。「何でもありません」ってだけ言って、そのままここから歩き出せばそれで済んだのに…。


 さっきから、あたしは自分の言動がおかしすぎる。きっと、思っている以上に三崎君の死がショックなんだ。早く実家に帰って休もうと、しゃがみ込んでいた両足に力を入れた時だった。


「そう…。あなた、尊を覚えているのね?」


 タケル…?たける…、尊…。


 そうだ。尊って、妹尾の下の名前。妹尾 尊だ。


 ❝あいつ❞の下の名前を知っている大人なんて限られてる。じゃあ、このおばさんは…。


 立ち上がり切ってから、もう一度そこを見てみると、女が口元の両端だけをゆっくりと持ち上げるようにして笑っていた。

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