第34話
今だって、妹尾は窓際最後尾の席で一人、静かにお弁当を食べている。普通だったら誰かとおしゃべりしながら食べてもいいようなものの、ひたすら無言でお弁当箱と外の景色を交互に見やりながら口をもそもそと動かしている。
そんな姿を見て、あたしは思った。絶対、無理。あんなの絶対耐えらんない。あんな寂しいお昼の時間を過ごすくらいなら、学校辞めるかもしんないって…。
だからなのかな?妹尾も似たような事を考えてるから、「友達の作り方教えて」なんて言ったのかな?
ぼんやりとそんな事を考えていたら、ふと、あたしのすぐ目の前で恭子の手のひらがふりふりと振られた。
反応が一瞬遅れてからハッとなったあたしの顔を、恭子は心配そうに見つめていた。
「どうしたの、未知子?さっきからぼうっとしちゃって…もしかして、具合でも悪い?」
「えっ…ううん!全然!全然、元気だよ?」
「そう?元気なさそうに見えたけど…右足が痛んでるとかじゃないの?」
「それも大丈夫。最近、調子いいから」
「本当?なら、よかった…」
心から安心してホッとしてくれる恭子の優しい笑顔が、本当に好きだなってあたしは思う。恭子の笑顔って本心からのものだから、結構癒されるんだよね。
そんな笑顔だけでも充分だっていうのに、恭子はさらにこんな事を言ってくれた。
「何でもないならいいけど、もし何かあったらちゃんと言ってよね?私達、友達なんだから」
友達。妹尾が欲しがってるもので、あたしを悩ませている言葉。だったら、恭子にとって「友達」っていうのは、どういうものなんだろう?
あたしは、思い切って聞いてみた。
「ねえ、恭子」
「なあに?」
「友達ってさ、どこからが友達だと思う?どこからが、友達ってカテゴリーに入れると思う?」
それを聞いて恭子はきょとんとした顔であたしを見つめ返していたけど、何十秒か経ってから、お箸でお弁当箱の中にあったミートボールをつまむと、それをあたしの口に優しく押し込んできた。
「むぐ…?」
たぶんレトルト食品だと思うそれをもぐもぐと咀嚼するあたしを、恭子はさっきと同じ優しい笑顔で見つめ続ける。そして、あたしが飲み込むのと同じタイミングでこう返事をした。
「一言でいいよ。たった一言、仲よくおしゃべりができたら、私にとってはそれでもう友達だよ。だからこそ、未知子とも他の皆とも友達になれたんじゃない」
「恭子…」
「後は…」
言葉を切って、恭子は肩越しに後ろを振り返ろうとしていたけど、何故かそれを途中でやめてしまった。
恭子がそのまま振り返っていれば、その視線の先には妹尾の席がある。まさか、とは思ったけど、恭子が振り返らなかった事をいい事に、あたしは恭子が切った言葉の続きを促す事はしなかった。
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