第28話

美里第一高校の図書室は、放課後は午後五時三十分まで開いてるから、その時間までなら生徒は出入りも利用も自由だった。本の数も結構充実しているし、最新の雑誌や新聞まで置いてあったから、昼休みはいつもたくさんの生徒でいっぱいだ。


 なのに、放課後になると、同じ図書室だっていうのにその様子はかなり変わってくる。


 昼休みは本の貸し出しで列が並ぶ受付カウンターも今は誰も並んでなくて、暇そうに大あくびをしている図書委員しかいない。当然、かなり広い間取りになってる図書室の中は利用している生徒がほとんどいなかった。


「ま、分かっちゃいたけどね…」


 何か手伝う事はない?と何度も言ってくれた恭子の申し出をやんわりと断って図書室に来たあたしは、どこか薄暗い感じになっている奥の方へと向かう。


 テーマは何でもいいんでしょ?だったら、適当に体育の授業でやったスポーツのルールをまとめただけのものでもいいよね?


 えっと、軟式テニスにソフトボールにバレーボール…あれ、バスケはまだやってなかったっけ?ま、いいか。


 適当に何種類かのスポーツのルールブック的なものを見つけて棚から引っ張り出したあたしは、そのまま一番近い机にまで持っていく。


 ドサドサドサッとなだれ落とすように机に置いたもんだから、やたらと派手な物音が響いて、カウンターの中の暇そうな図書委員が「ん?」って感じでこっちを見た。あたしは中途半端な愛想笑いをして、そそくさと席についた。


 さて、どう書こうかな。まあ、先生も言ってた通り形だけのものなら、さほど完成度は重視しなくていいかな。よし、丸写し丸写し…。


 そう思いながら、あたしは棚から持ってきた本の山の一番上にあったものを左手で掴み、右手でレポート用紙を広げる。そして、いざ丸写しとシャーペンを握った時、あの体育の時間以来、徹底的に距離を置いていた奴の聞きたくもない声が真正面から聞こえてきた。


「大山さん。ここ、いい?」


 あたしが承諾の返事をする前に、図々しく机を挟んだ前の席に座ったのは❝あいつ❞――妹尾 尊で。不覚にも、あたしは少しの間、妹尾に何も言えなかった。

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