第27話



 あれから、季節は夏に向かってあっという間に暑くなっていき、高校生活最初の夏休みがもうすぐやってこようとしていた。


 火傷の痕のせいでうまく泳げないあたしは、一学期終了直前までやっていた水泳の授業もほとんど見学で過ごした。一回だけ水着を着てプールに入る事はできたけど、ビート板を持って軽くバタ足をするだけで精いっぱい。それでも何とか25メートル泳げた時、恭子は手放しで喜んでくれた。


「未知子、やったわよ!よく頑張ったじゃない!」


 もちろん、他の女子達も拍手しながら一緒になって喜んでくれてたけど、やっぱり恭子の言葉が一番ズシリとくる。オーバーなくらいにはしゃいで、ぎゅっと抱きしめてくれるんだもん。


 そんなあたし達の様子を、体育館の窓から毎回飽きずに覗き見ている逢坂と島本のバカコンビが本当に腹が立つっていうか…。


「逢坂、島本!あんた達、鼻の下が伸び切っててキモ過ぎるんだけど!」


 覗かれてる事に勘付いた女子の誰かがわざと大声でそう言ってやると、男子の体育を見ていた担当教師がそれに気付いて、バカな二人にそれぞれ一発ずつげんこつをかましてやってる。


 暑さの為に体育館の窓は全部開けっ放しになっていたから、二人がやられる様子はプールからも丸見えだ。バカコンビはあたし達女子の格好の笑い者になっていた。






「レポート、ですか?」


 一学期最後の水泳の授業が終わった時、見学用の体操服から制服へ着替えようと更衣室に向かっていたあたしを担当教師が呼び止めた。そして、終業式の日までにテーマは何でもいいから保健体育に関するレポートを提出するようにと言ってきた。


「ほら。大山は実技がほとんどできないから、その分、他の事で単位を補おうと思っているんだ。もちろん、授業の準備を率先してやってくれてる事は評価に入れてるけど、それだけじゃちょっと弱くてな」

「はぁ…」

「本当にテーマは何でもいいんだ。一学期の授業でやった事をまとめるだけでも充分だ。まあ、形だけのものだと思って、気軽にやってくれればいいから」


 そう言って、担当教師はあたしの肩をポンポンと軽く叩いて、そのままさっさと行ってしまう。あたしの口からため息が漏れた。


「何でもいいとかが、一番困るんですけど…」


 うちに帰ってやり始めても終わる気がしない。一緒に帰る約束をしていた恭子には悪いけど、今日の放課後、図書室にでも寄ってレポートを済ませよう。そう思ったら、二度目のため息が漏れた。

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