第23話

「あ、大山…」


 最初に声をかけてきたのは、小西だった。見た目は高校時代と全く変わってないけど、お通夜の席という事もあって、その手にスマホを持っていない。ただそれだけで、小西が何だか別人っぽく見えた。


 あたしは目元を抑えていたハンカチをバッグにしまいながら、小さく頷いた。


「うん。小西、久しぶり…。とんだ同窓会になっちゃったね」

「全くだよ。クラスの他の連中もさっきまでいたんだ。いたたまれなくなったみたいで、皆出ていっちゃったけど。今は僕達だけだよ」


 そう言って、小西は大広間の奥に顔を向ける。そこには三崎君が入った大きな棺があって、そのすぐ側に島本と…菊池先生がいた。


 島本も、あの頃と見た目は全然変わってない。ここが三崎君のお通夜の場所でなければ、あたしはすぐに島本の頭か背中をばしんと叩いて「久しぶり、元気だった!?ところでこの間の成人式の同窓会で、恭子に変な事しなかったでしょうね!?」なんてまくし立ててやるのに。


 それなのに、島本の奴はあたしに気付かないどころか、全身を小刻みに震わせていて。その手は三崎君の棺をずっと撫でてあげていた。


「痛かったよな、三崎…。こんな目に遭わされて、苦しかったよな、つらかったよな…。ちくしょう、ちくしょう…!」


 とても小さい声だったけど、しんと静まり返っている大広間では島本のそんな呟きも響いて聞こえる。嗚咽が混じりだした島本の声に、あたしはまた鼻の奥がつんと痛くなって、涙が一筋、勝手に流れていった。


「大山…?ああ、大山じゃないか」


 島本の肩に手を置いて寄り添っていた菊池先生がふと顔を上げて、あたしの気配に気付いてくれたのか、そのままくるりと振り返ってきた。途端にあの告白の時の記憶が蘇ってきたけど、今はそんなほろ苦い感傷に浸っている場合じゃない。


 あたしは軽い会釈をしながら「お久しぶりです、菊池先生」と挨拶した後、この場にいない二人の男の行方を尋ねた。

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