第20話

『同窓会にはね、五人来てたの。逢坂君、島本君、三崎君、小西君、徳井君の五人…。あと、菊池先生…』


 菊池先生の名前を聞いて、思わずあたしの両肩がぴくんと揺れる。


 そっか、来てたんだ菊池先生…。やっぱりちょっとの時間だけでも行けばよかったかな、同窓会…。


 じわじわと後悔みたいなものが、緩やかなスピードであたしの心を占めていきそうになる。それをものすごい圧となってせき止めてくれたのが、恭子の次の言葉だった訳で。


『それでね…。二次会に行く途中で、偶然通りかかっちゃったの。その、妹尾君が死んじゃった場所に…』


 頭の中に、パッとその光景が浮かぶ。三年間通った通学路の一部だったから。


「ああ…あの、二丁目の交差点がある横断歩道の所でしょ?確か、ガードレールがなかったっけ?」

『うん。だけど、だけどね…』

「どうしたの?」

『…誰も、誰も妹尾君の事を覚えてなかったの。菊池先生は少し離れた所にいたから、聞こえてなかったと思うんだけど…私が何言ったって、五人の誰も妹尾君の事を思い出してくれなくて…!』


 ちょっとちょっと。そんなはずないじゃん。あたしはすぐにそう思った。


 だって、❝あいつ❞が死んだ次の日、朝のホームルームであたし達はその事を真っ先に知らされたじゃん。担任だった女の先生は、そのせいで思いつめちゃって、結局そのまま休職したくらいなのに。


 あの時、クラス中が大騒ぎになってたじゃん。特に逢坂達五人は教室の隅に一目散に集まって、何だかずっとごにょごにょ話してたし。


 お通夜と告別式に行くべきだって話にもなったのに、親御さんの意向で遠慮して下さい的な事になって、せめてこれだけお棺に入れてもらいたいってクラスの皆で一言ずつ書いた色紙を届けたっけ。あれ?あたし、何て書いたかな…。


 その時の自分がどう思ったのか、最後に何て書いたのか…何故かどうしても思い出せない。それを恭子に悟られたくなくて、あたしはとっさにできる限りの明るい声を出した。


「あっはははは!恭子、それってあんた、逢坂達に思いっきりからかわれたんだよ!」

『えっ…!?』


 予想通り、恭子はまぬけっぽい声を出して驚いてた。あたしは素早くそのまま畳みかける。


「どうせ逢坂達、最初の一次会でしこたま飲んでたんでしょ?酔っぱらった勢いで、そういうタチの悪い冗談ぶちかましてきたのよ。あいつらなら、それくらい普通にやりかねないよ」

『冗談、冗談だったの…?』

「当たり前じゃん。あんな死に方したクラスメイトを忘れられるほど、あいつらの脳細胞も単純じゃないでしょ。からかわれたのよ、恭子は」

『うん。そうだよ、そうだよね…』


 あたしの声につられて、少し元気な声を出す恭子。よかった、とにかく落ち着いてくれて。


 全くあのバカ集団、次に会ったらどうしてやろうか。


 そう思いながら、あたしはその後の数分間、恭子との通話を楽しんだ。それが、恭子と言葉を交わす最後になる事を知らないで。

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