第19話



『…未知子?ねえ、未知子聞いてる?』


 スマホ越しに聞こえてきた恭子の大声に、あたしははっと我に返った。


 いけない、つい昔の事を思い出しててだんまりになっちゃってた。そりゃあ、覚えてるよなんて返事しといて、その後ずっと何も話さなかったら、恭子じゃなくったって大きな声出すよね…。


 あたしは新幹線の窓に写っている自分のしかめっ面から目をそらすと、慌てて取り繕った。


「ごめんごめん。ちょっと妹尾の事を思い出しちゃってたからさ」


 実際そうだったのだから、その通りに話した。まあ、今のところ嫌な思い出しか浮かんでこないけど、嘘をついてる訳じゃないしね。


 でも、何で今頃になって、急に❝あいつ❞の事なんか聞いてきたんだろう?だって❝あいつ❞は、高校二年の三学期の時に…。


 あたしの口がそう言いかけたが、それより一瞬早く、恭子の声が聞こえてきた。何故か少し嗚咽が混じっているようにも聞こえて…もしかして、泣いてるの?


『うっ…よかった、未知子は覚えていてくれて…ぐずっ…』

「え?ちょっと恭子?ヤダ、何で泣いてんの!?」

『だって、だって逢坂君達が…』

「ちょっ…まさか逢坂と島本のバカコンビに何かされたとかじゃないよね!?」

『ちがっ…そんなんじゃないよ』


 恭子は何とか自力で落ち着こうとしているのか、あたしの耳にはあの子の深呼吸の音が何度も聞こえてきた。


 すうう~…と深く息を吸い込み、はああ~…と静かに吐き出しながら、スマホを持っていないもう一方の手を胸元に当てている恭子。どんなに新幹線があたし達を遠く引き離していこうとも、恭子のそんな姿は簡単に想像する事ができた。


『おかしいよ。だってあんなの、絶対におかしいよ…』


 何分くらい過ぎただろうか、少し落ち着きを取り戻しいたらしい恭子が続きを話し始めた。

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