第17話

「…ムカつく~!妹尾の奴、マジでムッカつく~~!!」


 現国の次の体育の時間。男女別れてのソフトボールであるのをいい事に、男子達の順番の間、あたしはグラウンドの外側に沿って設置されている金網を掴んでガチャガチャと鳴らしていた。


 気分はこれ以上ないってくらい、超最悪。さっきからイライラが全然治まってくれなくって、むしゃくしゃする。そんなあたしの様子を、すぐ隣で立っている恭子が苦笑混じりで眺めていた。


「未知子ったら…、もうそんなに気にする事ないじゃない。いつまでも怒んないでよ」

「あたしだって、できればそうしたいよ。でも、何かあいつ、癇に障るったらないんだもん!」


 あたし達の視線の先では、男子達が二つのチームに分かれてソフトボールを続けている。短縮された五回ゲーム三回裏の攻撃で、バッターボックスには小西がでんと立ち構えていて、それに対するピッチャーが逢坂だ。


「運動不足の小太りスマホオタク君に、この俺様の豪速変化魔球が打てるかな~?」


 さっきから大した事ない速さの球しか投げてないくせに、逢坂はからかい口調で小西を挑発している。その安い挑発に小西がムキになっていろいろ言い返しているのを見て、男子は全員笑っていた。外野の一番奥でつまらなそうに立っている❝あいつ❞を除いて。


「ほら恭子、あれ見てよ」


 グローブはきちんとはめているけど、❝あいつ❞はどこか持て余すような感じでそれを見つめている。逢坂達の話はしっかり聞こえているはずなのに、「…あいつら、何がそんなにおかしいんだろ?バカみたいに笑ってるなぁ」って言わんばかりに全身でそっぽを向いていた。


 そういう態度が、本当ムカつくっていうかなんていうか…!気が付けば、あたしは思いっきり力説していた。


「さっきの現国の時もそうだけど、今も何だってのよ!あたし達の中に溶け込む気、まるでゼロって感じじゃん!?あんなのと三年間一緒のクラスだなんて、超幻滅。まるで、きれいな絵に一滴落とされた墨汁のシミみたい」

「墨汁?」


 不思議そうな表情をしながら首をかしげてくる恭子に、あたしは大きく頷いた。


 そうだよ、❝あいつ❞は墨汁のシミとおんなじだ。真っ白い半紙の上でないと役に立たなくて、きれいな絵にちょっとでも落とされると迷惑でしかないもの。


 …うん、決めた。これからは❝あいつ❞の事を墨汁だと思おう。そう思って無視していこう。そしたらちょっとはこのムカつきもマシになるに違いない。


 そう考えついたと同時に、ちょうど早々と男子達のゲームは終わったようで、女子の順番になった。


 あたしはわしづかんでいた金網から手を離して、恭子と一緒に男子の誰かからグローブを受け取りに行こうとして…ふいに、ぐらりと身体のバランスを崩しかけた。右足の太ももがつっぱったんだ。

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