第12話

ブーッブーッブーッブーッブーッ…。


 Gパンのポケットから規則正しいバイブレーションの音がする。そうだ、成人式の会場に入る時、係の人が口うるさく言うもんだから、マナーモードにしてそのままだったっけ。


 慌ててスマホをポケットから引っ張り出すと、液晶画面には嬉しい名前が浮かんでいた。


 …嘘、マジで?あの子、番号変えずにいてくれてたんだ…。


 あたしはもうたまんなくなって、すぐに電話に出た。


「もしもし!もしもし恭子!?」

『もしもし未知子?久しぶり、元気にしてた?』


 いったい、どれだけぶりだろう。最後に電話をしたのは、確か…うん、去年の夏休み前くらいだった。その頃から、恭子が入っているアイドルグループ『Crystal』はどんどん売れ始めていって。やがて、こっちから何度電話をかけても全然繋がらなくなっちゃったから…。


 そんな事を考えながらほうっとため息をついたら、その気持ちがそのままダイレクトに伝わっちゃったのか、恭子の少し寂しそうな声が耳に届いた。


『これまで電話に出られなくてごめんね、未知子。無視してた訳じゃないの。仕事がものすごく不規則になってきたのと、マネージャーにあまり私用電話をしちゃいけないって止められてたから』

「そんなの仕方ないよ。今の恭子は、日本中の若い男が夢中になってる時の人なんだし?メールさえ読んでくれてたらいいからさ」

『うん。あ、この間は佳奈(かな)の結婚を知らせてくれてありがとう。メール読んだ時は、本当にびっくりした~』


 佳奈っていうのは、あたしの中学時代からの友達で、高校もずっと同じクラス。当時は超真面目で超カタブツのクラス委員長だった。で、そのまま順当に大学に進学した佳奈は、この間のクリスマスイブに研究室の准教授とできちゃった婚をした。


 正直、最初にそれを聞いた時はムカついた。あたしと条件は一緒だったじゃんって。で、こっちは大失恋したのに、佳奈は見事に成就って…あたしとあの子の差は何だったのってへこむにへこんで、その気持ちをそのまま恭子にメールしたんだった。


 …あ、いけないいけない。せっかく恭子が久々に電話をかけてくれたのに、こんな事ばっかり考えてちゃ。何か別の話題を…。


 とは思ったものの、あたしの頭はそれほど有能じゃない。結局口から出たのは、今日の成人式の事だった。

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