第11話



 成人式も無事に終わり、会場で目に留まった中学時代の友達と一通り写真撮影や会話を済ませた後、あたしは急いで実家に戻った。


 意外な事に、高校時代の知り合いとは全然会えなかった。確かに今年は新成人の数が例年より少し多いと聞いていたし、そのせいで会場になったホールのロビーは結構しっちゃかめっちゃかになっていた。取材に来てた地元テレビ局のレポーターがすごい事になってたっけ…。


 もしかしたら、と淡い期待を込めて恭子の家に電話をかけてみたけれど、電話に出たお母さんのひどく申し訳なさそうな声が今も耳に残っている。


『本当にごめんね、未知子ちゃん。何とかオフをもらってくるとは言っていたけど、やっぱり成人式は無理みたいなの』


 まあ、しょうがないしょうがない。あたしはただの短大生、恭子は今や押しも押されぬスーパーアイドルなんだもん。


「もう、恭子には二度と会えないんだろうなぁ…」


 思わず呟いてしまった自分の言葉に、一気に寂しさが募る。それを認めたくなくて、あたしは恭子に見せたかった朱色の振袖の帯を一気に解きにかかる。新幹線の出発時間まで、もう間がなかった。





 次に帰ってくるのは卒業式の後になるからと両親にそつなく言って、あたしは新幹線に飛び乗った。


 高校卒業後、あたしは県外の短大に進学した。地元から新幹線で三時間程度の、ずいぶん賑やかな街にあるその短大で保育士になる為の勉強をしていて、来月には採用試験がある。たぶん、そのままあの街でずっと暮らす事になるんだろうな…。


 別に、自分の生まれ育った町が嫌いだとかそんな事は思ってない。でも、どうしたって田舎くささがめだつ。ろくな仕事もないし、典型的な過疎都市だ。今日、成人式に出席していた子の大半は、もうとっくに心は離れちゃっていると思う。


 そう考えると、また寂しさが心の中いっぱいに広がる。そして、ちょっとした後悔が生まれた。


「会場で誰とも会えないって分かってたら…同窓会、行けばよかったなぁ」


 今更ながら、逢坂の誘いを断わった数日前の自分が憎たらしい。菊池先生の事は確かに気にかかるけど、それでもこんなに寂しく思うくらいだったら…て、すっかり真っ暗になって景色なんか見えもしない新幹線の窓の向こうを見つめた時だった。

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