第10話
菊池先生への想いは一日一日が過ぎてくたびに、どんどん大きくなっていって…そんな悩みを打ち明けられるのは、親友の恭子しかいなかった。
最初、恭子はもちろんすごく驚いてたし、信じられないって感じの顔をしてた。けど、恭子は決して反対はしなかった。
「未知子。私はね、どんな結果になったとしても、未知子に後悔だけはしてほしくないと思うんだ」
卒業式を三週間後に控えた日の事。お互いに進路が決まった事をお祝いしようと、あたしの部屋でミニパーティーをやってた時、オレンジジュースを飲んでいた恭子が突然そう言ってくれたのを覚えてる。
ちょっと遠い目をしながらそんな事を言うもんだから、あたしは不思議に思って問い返したんだっけ。
「後悔?」
「うん。私ね、最近すごく後悔してばっかなの。どうしてあの時、何もできなかったんだろうって。ほんのちょっと勇気を出せていれば、ほんの一言口を開いていればって、ずっとそんな事ばっかり思ってる」
何言ってんだろって、思った。めでたく芸能事務所に入る事が決まって、順調に行けばすぐにデビューできるって所までこぎつけてるような子が。こっちは地道に短大行って頑張んなきゃいけないってのに。
でも、そんな考えはすぐに吹っ飛んだ。
恭子の言う通りだ。このまま何もやらずに卒業するよりは、全然いい。菊池先生には迷惑だろうと思うけど、あたしの想いを告白させてもらおう。
「分かった」
あたしは決意して言った。
「卒業式が終わったら、菊池先生に告白する!」
あんまり気合い入れまくって教室でもそう言ってた気がするから、もしかしたらクラスの誰かに聞かれてたかもしれないけど…。
卒業式当日。あたしは卒業式もクラスの最後のホームルームも終わった後で、菊池先生を校門前に呼び出して告白した。結果は、案の定だった。
「すまない、大山。お前が作ってきてくれてた弁当は本当にうまかったし、お前のその気持ちも心から嬉しいと思う。でも…俺はもう、二度と恋愛や結婚はしないと決めてるんだ。本当に、ごめんな」
「やっぱり…噂で聞いてたけど、前の奥さんの事がずっと好きなんだ」
「ああ。今でも一番大事な女性だ。俺に、本当に大切な時間をくれた人だから」
「マジでムカつく…。そこまで大事に思ってくれてる菊池先生を捨てるような女なんて…!」
「お前も、いつかきっと分かるよ」
菊池先生が、うなだれてぐずり始めてしまったあたしの頭を優しく撫でてくれた。ものすごく、温かかった。
「いつか、大山の事を大事に思ってくれる人が現れた時に。そして、大山もその人の事を大事に思える時が来たら…」
あれから二年。
あたしはまだ、そんな人に会ってない。だからまだ、菊池先生に会う事はできないって思ったんだ。また、好きって言っちゃいそうだったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます