第9話
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菊池先生があたし達のクラスの担任になったのは、あたし達が高校三年に進級してからの事だった。
本当は二年の時に担任をやってくれてた女の先生(あんまり好きじゃなかったから、名前なんて覚えてない)がそのまま繰り上がって担任を続けるはずだった。
でも、二年の三学期が始まってすぐ、あたし達のクラスであんな事が起こって以来、その女の先生は過度なストレスでしばらく休職しなくちゃいけなくなり、その後釜と言っちゃ聞こえは悪いかもしれないけど、菊池先生が自ら名乗りを上げて担任になってくれた。
はっきり言えば、初めて顔を合わせた新学期最初の日から、菊池先生が好きになった。恋愛的な意味で。いわゆる一目惚れって奴で。
正直なところ、菊池先生はイケメンって訳でもなければ、おしゃれな感じでもない。年だって全然離れてるし、むしろうちのお父さんとそんなに変わんない。先生と生徒って立場抜きで横に並んだら、絶対親子に見える事間違いなしだって。
でも、何でかな。タバコとお酒くさいうちのお父さんと違って、菊池先生には何か惹かれるものがあった。
何ていうか…雰囲気?一緒にいると、何だかホッとするって言うの?とにかく、ものすごく穏やかな気持ちにしてもらえるような気がする。菊池先生の中からは、いつも癒し系的なものが溢れてるって感じがしてた。
それを敏感に感じていたのは、どうやらあたしだけじゃなかったみたいで。クラスの女子の何人かが、こぞって菊池先生にあれこれ話しかけてくるようになった。それを見てたら、何だか負けたくないって思いが急激に込み上げてきて。
だからかな。一学期が半分すぎてた頃、いつもお昼は売店のパンばかりだと言っていた菊池先生の為に、時々だったけどお弁当を作っていくようになってた。
「はい、菊池先生。これどうぞ」
「あれ…大山、今日も持ってきてくれたのか?バツイチの独り身としてはありがたいけど、そんなにしょっちゅう持ってきてもらうのはさすがに気が引けるぞ?それにな…」
「大丈夫!自分の分を作る時におかずを作りすぎちゃうから、それ捨てるのももったいないってだけだし。あ、ちゃんと勉強もやってますからご心配なく」
「俺のセリフを取るなよ…まあ、今日も遠慮なくもらうか。ありがとうな、大山」
そう言って、ニコッと笑ってくれる時の菊池先生の雰囲気が一番好きだった。例え、あたしの他にもお弁当を持ってくる女子が何人もいて、あたしもただその中の一人くらいにしか思われてなくったって。
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