第一章 大山未知子
第8話
「…は?成人式の後で同窓会?」
『そうそう。企画したのは正樹で、俺が幹事なんだけど…大山、来るか?』
もう深夜と言っても差し支えない時間に、あたしのスマホから電話着信のベルが鳴り響いた。
今日は、たまるにたまっていた授業のレポートがやっとまとまったところだった。クタクタになった身体をベッドにダイブさせてウトウトしかけてたってのに…と、ちょっとイライラした気持ちで電話に出てみれば、相手は高校時代の同級生の、逢坂健一だった。
逢坂の口から島本正樹の名前が出た瞬間、すぐに「やっぱりね」と思った。逢坂はともかく、島本は思い立ったら吉日的な性格してたもん。どうせ、二十歳になった記念に皆でどんちゃか騒ぎしたいっていうのが本音に決まってる。
正直、あまり気乗りがしない。まだお酒がちょっと苦手なあたしは、それに巻き込まれるのが大いに嫌だってのもあったけど…。
あたしは、スマホの向こうで返事を待っている逢坂にこう聞いた。
「ねえ、逢坂。恭子は来れそうなの?」
『恭子?う~ん…一応、実家の方に電話してお母さんに言っておいたけど、ちょっと無理なんじゃねえ?』
「そうだよね」
あたしの親友の恭子は、今はもう別世界の人になっちゃってる。ごくたまにメールや電話をくれるけど、顔を見れるのがテレビや雑誌の中だけだなんて…。
(恭子がいてくれてたら、全然違うのにな…)
そう思いながら、さらに聞きたかった事を口に出す。何となく、そうであってほしいのとそうであってほしくないっていう真逆の気持ちがごちゃ混ぜになってくのを感じながら。
「じゃあ…菊池先生は?」
『え?菊池?』
「そう、菊池先生はどうすんの?」
『呼ぶに決まってるだろ。何、当たり前の事言ってんだよ』
二回目の「やっぱりね」が、あたしの頭の中を通り過ぎていった。
それと同時に、高校の卒業式の日の「あの事」がまざまざと思い出されていく。あれから、まだ二年しか経ってないんだ…。
「…ごめん。あたし、パス」
少し悩んだ後で、あたしが出した答えがそれだった。
「来月、保育士の採用試験が控えてるから、成人式が終わったらそのままとんぼ返りするつもりなの。ごめんね逢坂、せっかく誘ってくれたのに」
『そっか。でもまあ、それならしょうがねえよ。安心しろ、女子の頭数が減ってどうしようもなくへこむのは正樹くらいだから』
「ぷっ、それは言えてる。菊池先生によろしくね」
『ああ。大山が来れなくて残念がってたって言ってやるよ』
「余計なお世話よ!」
本当、それは余計なお世話。逢坂の奴、たぶん「あの事」知ってるな。
じゃあねと通話を終わらせて、あたしは再びベッドの中に身体を沈ませる。そのまま眠っちゃおうと思うのに、頭の中で「あの事」を何度も思い出しちゃうから、顔がほてってすぐに眠れそうになかった。
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