第7話
「あぁ…尊、尊ぅ…!」
女はゆっくりと顔を上げ、手の中に握りしめていた紙切れを広げる。そこには、女にとっての希望と絶望が混在して書かれてあった。
『我は望む。我が息子、尊に再びの命を。今ここに、無数の命を捧げたもう』
女はぼそぼそとした声で、最愛の息子に向かって話しかけ始めた。
「尊、尊…どうして帰ってきてくれないの?どうしてお母さんの所に戻ってきてくれないの?また一緒に仲良く暮らしましょうよ。お母さん、それ以外は何も望んでないのよ?ねえ、どうして…?何か、戻ってきたくない理由でもある、の…?」
そこまで呟いた時、女ははっとある事を思い出した。
そうよ。あれはあの子がいなくなってしまう直前の事…。
あの子の洗濯物を置いてあげようと思って部屋に入った時、机の上に置きっぱなしだった一冊のノートがやたら気になった。見ちゃいけないとは分かっていたけど、「一ページだけ一ページだけ」ってめくってしまったのが始まりで…。まさか、それを全部読み終えた時に、あの子が死んだという知らせが来るなんて思いもしなかった。
まさかあの子が…尊が、あんなひどい目に遭っていたなんて。その事に、母親である私がちっとも気付いてあげられなかっただなんて。
きっと尊は、その事を苦にして死んだ。私に何も言わず、私を置いて。それだけ辛い思いを抱えて、死んでいったに違いない…!
「そう、そうよね尊…」
女は持っていた紙切れをはらりと魔方陣の中心に落とすと、そのままゆらりと立ち上がった。その顔は、狂気に満ちていた。
「あいつらが…あの五人が生きてたんじゃ、安心して生き返れないわよねぇ…?だったら、やり方を変えなくっちゃ…。お母さんが尊の十倍も百倍もあいつらを苦しめて、そのまま生贄にしてやるわ。いい考えでしょ?ねえ、尊…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます