プロローグ ~妹尾明美~

第6話

「キイイイイイィィィィィエェェアアアアアア~~~~~~~!!」


 女は、おぞましい奇声を発しながら、自らが描いた魔方陣の中心でがくりと両膝をついた。


 その目はぎょろぎょろと魔方陣の中に敷き詰めた小動物、魚、カラスなどの腐乱した死骸をにらみつけ、口元はぶつぶつと同じ言葉を繰り返す。むせ返るような腐敗臭など、女はもはや気にする事もなくなっていた。


「何でよ、何でよ…ちゃんと本に書いてあった通りの手順を踏んだわ。これだけ生贄があれば充分でしょ…?もう三年も同じ事を繰り返してるのに、それなのに何でよ…何で尊は帰ってこないの…!」


 女の手の中には、一枚の紙切れが握られていた。女が行っている「儀式」において絶対に必要とされるものだったが、今の彼女にとって価値がないものとなりつつあった。


 彼女が大学時代にかき集めていた黒魔術の本の中の一冊に記されていた、死者を蘇らせるという秘術。一言一句暗唱できるようになるまでそれを読み込み、何の間違いもなく手順を踏んで、用意すべきものも全て整えた。


 蘇らせる対象の年齢が大きければ大きいほど生贄の数も多く必要だと書いてあったので、目に付いた小動物は片っ端から手にかけてきた。近所の主婦が飼い犬がいなくなったと騒いでいたような気がするけど、たぶんその子も尊い犠牲になってくれたんだろう。


 本当は小動物よりも人間の方が効果的だったのかもしれないが、どこで何をしてきたのかも分からない赤の他人の穢れた血を使うのは抵抗があった。あの子の知り合いを使うのも同様だ。万一、あの子がそれを知って傷付きでもしたら、秘術の効果が失われてしまうかもしれない。


 だから別の生贄を用意したというのに、そうして妥協してしまったのがよくないのか。そもそも、あの本自体が間違っていたのか…。


 あれから三年の間、何度同じ秘術を繰り返して生贄と祈りを捧げても、女にとっての最大の望みが叶う事は決してなかった。

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