第3話

妹尾が言った。


「女子ばっかりの所に僕一人だけ入るなんて恥ずかしいし、申し訳ないよ。遠慮しておく」

「え…いいの?本当に」


 それに対して、恭子の声は本当に残念そうに聞こえて、あたしはある事を疑わずにいられなかったっていうかなんていうか…。


 痺れを切らした小西が「もう撮るよ!」なんて大声で言うから、その時はそれで終わっちゃったんだっけ…。





 ふっと目を覚まして反射的に目覚まし時計を見てみれば、まだ起きるには早すぎる時間だった。


 でも、今さっきまで見ていた夢のおかげでもう一度寝直す気なんて起きず、あたしはベッドからゆっくりと出る。そして、本棚の隅に入れっぱなしだった高校の卒業アルバムを引っ張り出して、あるページを開いた。


 高校三年間における思い出の写真をランダムに選んで収められたスナップページ。その数々の中の一つに、あの時の写真がある。


 あたしや恭子、そして他の何人かの女の子達がバスの前でもつれ合ってVサインしてる写真。背景にはきれいなモミジが映えている。その写真の隅の方にあいつが…妹尾 尊がいた。


 ちょっと寂しそうに笑いながら、こっちを見ている姿が写っている事をあたし達が知ったのは、妹尾が死んでから少し経っての事だ。卒業アルバム用に使う写真を提出する際、デジカメのデータをプリントアウトした時、最初に恭子が気付いたんだった。


『何だ…妹尾君、本当は一緒に写りたかったんじゃない。素直に言ってくれたらよかったのに』


 そう言って、静かに涙ぐんでた恭子。あの時、あたしはもう聞かずにいられなかった。


『ねえ恭子。死んだ人を悪く言いたくないけどさ…。妹尾って余計な事も素直に言いすぎてた頃もあったじゃん。あたしさ、あいつに「大山さん、スカートの丈が短すぎだよ。みっともないからやめなよ」とか大声で言われた事あるし。まさかあんな無神経な奴の事、好きだったとかないよね?』


 あたしは、この時の恭子の返事をたぶん一生忘れられない。そして妹尾が、本当は何が言いたかったのかって事も。


『未知子。あなた、子供の頃に大きな火事に巻き込まれて、右足の太ももに火傷の痕が残ってるんでしょ?今もたまにつっぱるから、体育のマラソンもうまく走れないし…妹尾君、たぶんその事に気付いてたと思う。だからあなたの右足が風に当たらないようにするのと、事情を知らない誰かに見られてからかわれたりするのを防ぎたかったんじゃないかな。私、そんな気遣い屋さんの妹尾君の事、本当に大好きだったよ?』


 だからこそ、信じられないんだ。


 あたしの親友と、実はあいつの父親であたしの初恋の相手でもあったあの人が、あんな恐ろしい事件を起こしたなんて…。

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