第2話
あたし達はバスの前に一列にって言うより、お互いがじゃれ合ってもみくちゃになってしまうような形で並んだ。もちろん、バス越しにモミジが写り込むようにするのも忘れずに。
「キャッ、ちょっと重い~」
「どこに手を突っ込んでんのよ、未知子!そこ最近気になってんだからやめてよ~」
「恭子の隣はヤダ、太って見えちゃうし」
あんまりあたし達がじゃれ合ってばかりいるから、その向こうで小西が少しイライラしながらデジカメを構えてる。何度か「ねえ、もう撮っていいのか?」なんて聞こえてきたような気がするけど…うん、無視無視。
小西の事を若干放置しながら、あたしがまた隣に立っている子(確か、美穂だったと思う)の脇腹をくすぐろうとした時だった。
「…あっ、妹尾君!私達これから写真撮るんだけど、一緒に写らない?」
そう言った恭子の言葉に、あたしもそうだったけど、まず間違いなく他の子達も「げっ!?」って思ったはず。撮影係の小西でさえ、さっきよりもっと嫌そうな顔してたし。
あたし達の視線の先には、クラスの誰よりも遅くバスから降りてきたあいつ――妹尾 尊がいた。
相変わらず、何考えてんだか分かんないくらい抑揚のない顔してる。せっかくの修学旅行だっていうのにちっとも楽しそうにしてないし、さっきまでずっとバスの窓の向こうを見てたっけ…。あれじゃ、隣の座席になった逢坂が気の毒って奴だわ。島本の所に行っちゃうのも分かる分かる…。
おまけに最近あいつ、何か調子乗ってる感じするし…やだな、妹尾が「うん」とか言って混ざってきたらどうしよう。
あたしが、妹尾に向かっておいでおいでと手を振ってる恭子の後ろ姿をちょっとにらんでやってたら、「ううん、いいよ」とかろうじて声が聞こえてきた。
これが妹尾の返事だったと気付くまで、たぶん十秒くらいかかった。それくらい、あいつの声を聞くなんて久しぶりだったから。
見ると、あいつはうっすらと照れ笑いを浮かべていた。えくぼも少し浮かんでいて、意外と可愛らしい笑顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます