プロローグ ~大山未知子~

第1話

…すっごく、懐かしい夢を見た。間違いなく、高校二年の秋に行った修学旅行の時の夢だ。


 新幹線を乗り継いだ後、バスに乗り換えて向かった行き先は、京都の方向だったと思う。その途中での何回目かの休憩場所は、真っ赤なモミジに囲まれた少し大きめのサービスエリアだった。


「きゃあ~♪何ここ、超きれい!ちょっと見てよ、恭子!あたし、あんなきれいなモミジ見たの初めて~♪」


 修学旅行って事で、あたしのテンションは出発直後からMAX状態だった。終始浮かれっぱなしの騒ぎっぱなしだったから、新幹線でもバスでも隣の座席に座っていた恭子はちょっと迷惑していたかも。


 あっ。夢の中でまで、あの時と同じ苦笑いを浮かべちゃってるじゃん…。それで、呆れたような声であの言葉を言ってくるんだ。


「もう、未知子ったら。修学旅行はまだ始まったばかりなのに、今からそんなんじゃ京都着いた途端にバタンキューだよ?」


 ほらね、やっぱり。これ、夢を見てるっていうより、夢の中であの時の事を思い出してるって感じだな。何だか変なの。


 で、あたしはそんな恭子の言葉なんかこれっぽっちも気にしないで、バスがサービスエリアの駐車場に着いた途端、恭子や同じ班になった女の子数人にこう言ったんだ。


「ねえねえ!ここ景色が超きれいだから、最初の一枚撮っとかない?」


 デジカメを手にするあたしのこの提案に、恭子達はもちろん大賛成。あたしは誰か適当な人にシャッター係を頼もうと辺りを見回して…斜め前の座席に座っていた男子の肩をがっしりと掴んだ。


「ねえ小西。あたし達写真撮りたいから、シャッター押してよ」

「えっ!?何で僕が!?」


 肩越しに振り返ってきた小西は、心底嫌とか面倒くさいとか言いたそうな顔をしてたけど、あたしはその小西が持ってたスマホを素早く掠め取ると、それをふりふりと左右に振ってやる。


「せっかくの修学旅行なのに、延々とスマホ見てるほど暇そうなあんたにお願いしてんだから、素直に聞いてくれたらいいじゃん。でないと…ほらほら~♪」

「わあっ、やめろよ大山~!分かったから、僕のスマホ返せ~っ!」


 別に国家を転覆しかねないほどの最重要機密データが入ってる訳でもないのに、ちょっとスマホを取り上げただけで小西はひどく慌ててたっけ。マジで何入ってたんだろ、あのスマホ…。


 しぶしぶシャッター係を引き受けた小西にデジカメとスマホを押し付けて、あたし達はバスの外へと出た。バスの窓越しなんかより、もっと真っ赤できれいなモミジが目の前いっぱいに広がってて、何かすっごく感動した。

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