第60話



「…ありがとうございます。やっぱりあなたは、名前の通り心優しい人だなぁ」


 やたら興奮して怒鳴りまくってるおじいちゃんから助けてあげたら、死神って人はあたしを見て、ニコッと笑った。


 別に名前がそうだからって、やった訳じゃないし。ただ、何でおじいちゃんがそこまで興奮してんのか、ちょっと興味が湧いただけだし。


 …あの子が言ってたのと似たような事言わないでよ、死神さん。もう、思い出したくないんだから。


 そう思っていたのに、目の前のおじいちゃんがトドメを差してくれた。


「ワシは、その奇跡の生還とやらを放棄する!そして、その権利を大窪さんに譲ってやってほしいんじゃ!」


 嘘でしょ。マジであり得ないんだけど。


 話を聞いてみれば、その大窪さんってのはおじいちゃんの友達で、その人も死にかけてるみたいで。


 要するに、おじいちゃんは自分がその人の身代わりになりたいから生き返りたくないとか言ってた訳で。


 本当、あり得ない。もしも、あたしがおじいちゃんの立場だったら、とてもそんなふうに思えない。


 マキナの事を助けてあげたいなんて、きっと思えない。


 それに、どんなに薄情だって思われたっていい。先にあたしを裏切ったのは、マキナの方なんだから。


 だから、あたしはおじいちゃんに言ってやるんだ。友達なんて、信じない方がいいって事を。

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