第59話

「『ないたあかおに』?なぁに、それ?」

「知らないの?」

「うん。日本に来るのは、今年が初めてだったから」


 実に、さらっとマキナはそう言ってくれて、あたしはすごく驚いて。


 そんなあたしに、マキナは続けた。


 父親の仕事の都合でいくつもの外国で暮らしてきた事。


 日本語は両親からしっかり習ってきていたから、全く不自由はない事(でも、生物部のネーミングセンスは問題ありじゃん)。


 英語が得意だから、授業がつまんない事。


 それから。


「この町っていうか、日本人の友達はいないから、生物部を作ろうって思ったの。ナイスアイディアだと思ったんだけどなぁ…」

「当然じゃん?」

「何故?」

「日本人って、大抵テレ屋が多いから」


 あたしはマキナをじっと見た。


 あたしとこの子はちょっと似てるかも、そう思った。


 親の都合に振り回されて、こんな田舎臭い町に来て、友達ゼロ。唯一違うところは、それをブツクサ文句言いながらも受け身になってたか、脱しようともがいていたか。


 何だかおかしくなって、プッと短く吹き出してしまったら、マキナはキョトンとした顔でさらに首を捻った。


「どうしたの、あなた?何がおかしいの?」

「優子」

「え?」

「あたしの名前は、木嶋優子よ」


 そう言うと、マキナは途端に満面の笑みを浮かべて、あたしの右手を両手で包み込むように握り締めてきた。


「ありがとう、優子。ようこそ、生物部へ!」


 こうしてあたしは、生物部に入る事になった。

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