第58話

「あら、あなた来てくれたの?」

「あ…」


 マキナは学校の近くのコンビニにでも行っていたのか、両手にビニール袋をぶら下げていた。たぶん、中身は教壇の上にあるものと同じ。


 あたしは、とりあえず頭に浮かんだ言葉を返していた。


「…そ、それお菓子でしょ?学校にそんなもの持ってきていい訳?」

「う~ん…よくないとは思うけど、作戦変更だから」


 そう言って、マキナはあたしの横をすり抜ける。そして、ビニール袋を教壇の上のお菓子やジュースの横に置いてから、あたしを振り返った。


「チラシ作戦は一通りやっちゃったから、次はお菓子で釣ろうかな~、なんて。ここが居心地のいい場所だって知ってもらうには、これが一番手っ取り早いって思ったの。あ、部活主任の先生には内緒よ?」

「あんたね…『ないたあかおに』じゃあるまいし」


 マキナの新しいやり方を知った途端、保育園の頃に読んだ物語がふと頭をよぎった。


 確か、人間と仲良くなりたい赤鬼がお菓子を用意して待ってるんだけど、全然うまくいかなくて…あれ?続き、何だったっけ?


 その先が思い出せなくて黙っていたら、目の前のマキナも不思議そうな顔をして首を捻っていた。

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