第57話

それからまた数日経った、ある日の放課後。


 あたしは授業に使う為に借りていた本を返そうと、南校舎にある図書室に向かった。


 閉館時間ギリギリになっていたから、あたし以外に利用する生徒は他にいなかった。機械的な対応をする図書委員に本を引き渡せば、そのまま図書室を――ひいては南校舎を出て、家に帰ればよかった。


 でも、それがどうしてなのか、急にふとマキナの事が気になった。


 しんと静まり返った南校舎の廊下。人の気配なんて全然感じられない。


 こんな所に生物部の部室なんて作って、あの子は今日も新入部員が来る当てもない勧誘をしてるのかな?


「ちょっと。ちょっとだけ…」


 あたしの口は勝手にそんな言葉を小さく呟き、あたしの両足は勝手に生物部の部室となった、あの空き教室へ向かっていた。






 鍵もかけられていない空き教室の中をそうっと覗き込んでみれば、あの埃まみれでカビ臭かった有り様からすっかり変わっていた。


 マキナ一人で掃除を済ませたのか、つい今の今まで授業をやっていたかのようなきれいさで、床や壁どころか、机や椅子の一つ一つにまでていねいに雑巾がけをしている。


 クモの巣が張っていた所には、マキナが折ったのか様々な形をした折り紙の飾りつけが並べられているし、教壇にはお菓子の袋がいくつかと、オレンジジュースの入った二リットル大のペットボトルが置かれている。


 何これ。誰かの誕生日パーティーみたいな感じなんだけど?


 そう思って呆然と空き教室の中を見渡していれば、あたしの背後からマキナの明るい声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る