第56話

それから数日。あたしは事あるごとに、マキナの姿を見かけるようになっていった。


 よっぽど部員が欲しいのか、マキナは休み時間になると必ず廊下に立って、すれ違う誰にでも例のチラシを渡そうとしている。昼休みの時なんて、焼きそばパンをかじりながらやってるのが窓越しに見えたくらいで。


 一組と二組が合同でやらされてる体育の授業の時なんて、一番呆れた。バレーボールの試合中、隣で身構えてる子に声をかけていて。


「それでね。皆で楽しくおしゃべりする部活なの。あなたもよかったら…きゃん!」


 全く前を見ていなかったマキナは、相手チームのスパイクをもろに頭にぶつけ、ふらふらとよろめいた挙げ句に、間抜けなほど顔から堅い体育館の床へびたーんと倒れ込んだ。


「こぉら、安西!おしゃべりとよそ見してんなぁ!真面目にやらんか、真面目に!!」


 審判をしていた体育の先生がホイッスルをけたたましく鳴り響かせてから言い放った後、コートの中はその場にいる女子全員の笑い声で満ちる。そんな中で起き上がったマキナは「えへへ~」と愛想笑いなんかしていた。


 まるでピエロみたいに見えた。何がそんなに面白くて笑ってるんだか、全然理解できなくて。


 ただ一つ理解できていたのは、マキナはいつでもどこでも、真面目に生物部とやらの勧誘をしているという事だった。

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