第55話

「あたし、部活に入るなんて言ってないじゃん?」

「え?違うの?」

「違うし。あんたが無理矢理チラシ持たせただけだし」


 マキナがそうしたように、あたしも埃まみれの机の一つに残りのチラシを置く。


 ぶわぁっと舞い上がった灰色のそれに、完全なる嫌悪感。おまけにちょっとカビ臭い気もする。どこか雨漏りでもしてるんじゃないの?


 もう冗談じゃない。とにかく一秒でも早くここから出なきゃ。


 そう思って、今度こそとマキナに背中を向けた時だった。


「こ、この生物部ってのはね!『ブツブツおしゃべりして、皆で生き生きしていこう部』を組み替えた略称なの!」


 …は?何それ?


 たぶん、マキナ的には超真面目に考えて、超ナイスなネーミングを思い付いたみたいな感じで言ってきたんだと思うんだけど、正直ない。うん、全然ない。


 ここは是非とも呆れ果ててるあたしからの空気を読んでほしいところなんだけど、鈍いマキナは全く気付かずにさらに続けた。


「ね?素敵な部だと思わない?皆でワイワイ楽しくやれる部なんだよ」

「別に…ちっとも思わない」


 それだけ返して、あたしは汚い空き教室を出ていった。


 残念そうにあたしの背中を見送るマキナの考えてる事なんて、この時はちっとも分からなかった。

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