第52話

「あ…」


 昇降口にある下駄箱から自分の靴を取り出し、そのまま外へ出ようとした時、足元にひらりと一枚のチラシが落ちてきたのが見えた。


 いや、一枚だけじゃない。二枚、三枚…まだまだたくさん。まるでなだれ落ちてきたみたいに、バサバサバサッと足元はチラシまみれになった。


 何、これと思って、その中の一枚を拾ってみる。すぐ『生物部 部員大募集!』なんて大きな見出しが見えた。


 あたしが思わず「はぁ~?」なんて声をあげたのと、高いソプラノの声が重なってきたのは、たぶんほとんど同じだった。


「あ、あの…ありがとう、拾ってくれて」


 すぐ真横から聞こえてきた声に振り返ってみれば、背中まで伸ばしている長い髪を二つに分け、それをさらに三つ編みにしているといった女の子がそこに立っていた。


 あまり背は高くなくて、めちゃくちゃ細い両腕で抱えきれないほどたくさんのチラシの束を必死になって押さえ込んでいる。小鼻の周りにいくつかある小さなニキビが、少し真っ赤になっていた。


 初めて見る顔だから、同じクラスじゃない。でもこの昇降口にいて、あたしと同じく先端に赤色のラインが入った上履きを履いているから、この子も一年生なんだろうな。


 そう思いながら、あたしは持っていた生物部のチラシをその子に向けた。


「はい」

「うん、ありがとう」


 その子はにっこりと笑って、私が差し出したチラシを指先だけで何とか受け取る。溢れそうなほどいっぱいのチラシがバランスを崩しかけたけど、それを何とか二の腕で抑えようとしている格好がなんだか面白くて、ついぷっと吹き出してしまって。


 それが、その子の私への関心を高めてしまった。


「ね、ねえ。あなた一年生でしょ?私、二組の安西真紀奈(あんざいまきな)」


 二組か、どうりで余計に知らない顔だと思った。


 その子――マキナはニコニコと笑いながら、さらに言ってきた。


「ねえ、生物部に入らない?」

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