第50話

あたしが初めてこの町に来たのは、小学校を卒業してすぐの事。


 あの時は、もうひたすら自分を不幸で可哀想な奴だと思ってた。


 本当だったら、小学校から仲良しの友達皆と一緒に、入学が決まっていた地元の中学校に通うはずだった。ものすごく可愛らしいと評判の制服を着て、わいわい楽しく過ごすはずだったのに。


 大人はずるい、すごく自分勝手だ。


 自分達が好き勝手やってきたおかげで起こっててしまった事に、子供を平気で巻き込む。平気で嘘をつくし、ごまかしもするし。


 そうかと思えば、ギリギリのタイミングになって本当の事をやっと吐き出す。その時点でもうアウトだという事に、大人はどうして気付かないかな。


 あたしの両親も、そんな大人だった。散々好き勝手やった挙句に、実にあっけなく離婚した。


 そしてあたしは、選択の余地というものを全く与えられないまま母親に手を引かれ、その母親の実家に程近いというこの町に引っ越してきた。


 母親にとっては馴染みがあって、思い出深くもある懐かしい町であっても、あたしにとっては最悪でしかなかった。


 初めて来た町、初めて見た景色、勝手の分からない町並み、知らない人々…何もかもが、困惑でしかなくて。


 とどめとなったのが、この町に越してきた事で新しく入学が決まった中学の制服。新しく買う間がなかったからと言って、母親は知り合いの娘さんが着ていたというお古の制服をもらってきた。


 これが、ものすごくダサい。すごく田舎くさいデザインだし、使い古しのせいもあって、余計にすすけて見える。


「良かった、サイズもぴったり。よく似合ってるわよ、優子」


 そう言って得をしたと言わんばかりに喜ぶ母親の背中を、あたしは思いっきり睨み付けてやる。


 全っ然良くなんかない、あたしが予定していた楽しい生活を返してよ。どんだけそう叫んでやりたかったと思ってんの?

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