第49話

「…ゆ、優子っ。ち、違うの、これは」


 マキナは慌てふためいた声をあげて、秀幸の身体を押し退け、ベッドの周りに散らばっていた上着をかき集める。


 秀幸も私に気付いた途端、その間抜けで派手なボクサーパンツを隠すように、慌ててズボンを穿き出した。


「そ、そうそう!優子、誤解するなよ?違うんだからな?」


 何が違うって言うんだろう。二人揃ってベッドの上で寝転がってて、裸に近い格好でいて。まさか、プロレスごっこしてましたとか言うつもり?だったら、逆に笑えるよ?


「…別に、隠さなくてもごまかさなくてもいいよ?」


 あ、また出た。マキナにさんざん直すように言われてた「別に」が。でも、まあいいか。ここは使い時でしょ。


「あたしの知らない時に、二人がそうしてたってんなら…そういう事でしょ?」

「ゆ、優子…」


 震える手で何とか上着を羽織ったマキナだったけど、震えたいのはこっちなんだって。


 マキナの真っ青な顔なんか見てらんない。あたしは、ふいっと視線を逸らして続けた。


「いいよ、別に。お邪魔だろうから、消えてあげる。後はお好きにどうぞ」

「優子、待って…、待って…」

「それじゃ」


 マキナの何か言いたげな言葉を完全無視して、あたしは玄関へと引き返す。途中で秀幸が何か叫んでたけど、よく聞き取れなかった。


 別にいいよ、聞こうが聞こえまいが結果は同じじゃん。


 あたしは、この一瞬で彼氏と親友をなくしてしまった。

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