第46話
優子は寝転んだままの少年を、じっと見下ろしたままで言った。
「やめなさいよ」
「あん?何だよ?」
「子供怖がらせて、自分の気持ちごまかすなんて悪趣味」
「何だと?」
少年はがばりと跳ね起き、優子の正面に立った。
まだ成長途中なのか、優子とさほど視線の高さが変わらない。よく見れば、機嫌を損ねて優子を睨み付けているものの全く凄味はなく、無理をしているようにも見えた。
そんな少年に、優子はさらに畳み掛ける
「あの子の気持ちがちょっとでも分かるなら、わざわざあおるような事言う必要ないじゃん?」
「よく言うよ、さっきまであのじじいに絡んでたくせに」
と、少年の指が自分を指してくる。
「お前だって、さんざんあおってたろ」
「あれは事実を言ってたの。でないと、おじいさんがもっと可哀想になるでしょ」
年甲斐もなく、ムッとした。きっと、自分が大窪さんに奇跡の生還を譲ると決めて話した辺りの事を言ってるのだと確信した。
自分は少年に向けていた歩みを優子に変え、彼女に言った。
「誰が可哀想じゃ。大窪さんはお前の言うような人ではないと、何度言えば分かる」
「おじいさんこそ、何度言えば分かってくれるかなぁ」
優子は肩をすくめて、わざとらしいため息を吐いた。
「どんなに仲良くしててもね、結局最後は裏切っちゃうものなの。信じた方が負けって奴よ」
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