第45話
そんな男の子の震えに気付いた主婦は、すぐに彼の頭に右手を乗せ、優しく撫でた。
「勇司君、大丈夫よ。大丈夫だから」
そう言って主婦は慰めていたが、その表情はどこかぎこちなくて強張っている。何が大丈夫なのか、自分で分かって言っているのだろうか。
そう思った時だった。
「…そんなもん、決まってんだろ?消えちまうんだよ、パッとな」
何の遠慮もなく言い放たれた言葉に、自分達は皆、そちらを一斉に振り向く。そこでは、中学生くらいの少年がごろりと仰向けに寝転び、天を仰いでいた。
「目を覚まさないんなら、あの死神だって俺達をここに置いとく理由がないだろ?かといって、死ぬ予定じゃなかったってんだから、きっと何もなかったみたいに消されちまうんじゃねえか?」
「そ、そうなの…?」
「たぶんな。いいんじゃねえか、どうせお前起きるつもりないんだろ。パッと消してもらうのも悪くねえだろ」
まあ、その時は俺も付き合ってやるかな~と、ひどく軽々しい口調で笑い転げる少年に、自分は優子の時以上の嫌悪感を抱いた。
何だ、この少年は。何もかもを軽視するような口ぶりがどうにも憎たらしい。男の子が本当は怯えている事に気が付かない鈍感ぶりが、どうにも許せない。
自分は岩肌から立ち上がり、少年に数歩近付く。だが、自分より早く行動に移した者がいた。
それは、優子だった。
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