第44話



 死神が「いいですか、ここで待ってて下さいよ?皆さん、絶対にここから動かないように!」と自分達に念押しして、三途の川の向こう側とやらに行ってから大分経った。


 自分は、少し小高くなった場所に足を向け、そこに突き出るようにあった岩肌の上に腰かけて待っていた。


 自分以外の四人も、ここでは特にどうする事もできないせいか、互いに話をする事もなく座り込んでいる。


 ただ一人、優子だけが先ほどの会話のせいでどこか落ち着かないのか、その辺りをうろうろと歩き回っていて、彼女のそんな様子を、主婦とおぼしき女性と男の子が少し心配そうに見ていた。


「ねえ…」


 誰に言ったのだろうか。ふと男の子が、小さく呟く。あまりにか細くて自信のなさげな声だった。


「僕達、このまま目を覚まさなかったら…どうなるの?」


 どうなる、か。


 自分の場合は、分かりきっている。大窪さんに奇跡の生還を譲るのだから、当然目を覚ます事なく死んでいくのだろう。


 だが、それをはっきり口に出すのは何だかためらわれた。よく見れば、男の子の全身が細かく震えていたから。


 ああ、やはり。


 先ほどはもう起きたくないなどと言っていたが、心のどこかでは逆の事を思っているのだろう。そのせいで、目を覚まさなかった時の事を想像して、恐怖を感じているに違いない。

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