第43話

何故だろう?ふいに、ある考えが頭をよぎった。そのせいで、この少女は自分に忠告めいた事を言うのかとも思った。


 聞いてみたくなり、自分はゆっくりと口を開いた。


「お前は、痛い目を見たのか?」

「え…」

「ワシは大窪さんに何もしてやれなかったが、お前は逆のようだな。友達に、何かされたのか?だからお前も目を覚ましたくないんだな?」

「…っ…!」


 優子の顔色が変わった。同時にその全身がわずかに震え、薄い下唇をぎゅっと噛み締める。


 やはりそうかと思っていれば、死神が自分の左腕を掴んで、やや強引に引っ張り始めた。


「ちょ~っと、今井謙造さん!あの年頃の女子は見た目とは裏腹に超絶繊細で複雑なんだから、直球どストレートを彷彿とさせる昭和的問いつめは控えて下さい!現世に戻った時に性格が変わってたら困るのは我々なんですから!」

「あ、あぁ…それはすまん」

「全く…、大窪武夫さんでしたよね?仕方ないから、お連れしてきますよ」

「なっ…ほ、本当かそれは!?」

「奇跡の生還を果たす者同士が揉められるよりはマシなようですからね!」


 そう言うと、死神は肩越しに自分を振り返って、「何て面倒な人なんだ」と舌を突き出してきた。真っ青で、先が二別れになっている細長い舌だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る