第40話

「君みたいな若い子に、ワシの気持ちなんぞ分からん」


 当然、優子はむっと表情を強張らせて言い返してきた。


「何それ。そんなの当ったり前じゃない、テレパシーが使える訳じゃないし。話してくんなきゃ分かるはずないじゃん」

「……」

「だ、大体さ。あたし達、いわば仲間みたいなもんじゃん?同じバスに乗っててここに来て、しかも生き返りたくないっての?だから、死ぬまでのヒマつぶしに話を聞かせてくれたって」


 ヒマつぶし。その言葉に、自分の中でさらに沸き立つものがあった。


 そんな時間などない。そんな事をしていて、この機会を失ったらどうしてくれるんだ。


 自分は優子を振り払いたくて、また大声を出した。


「…ふざけるな!」

「きゃっ…!?」

「誰が仲間か?お前と一緒にするな、お前みたいなのと…」

「何よ、私の何を知っててそんな事」

「知らずとも分かる、いかにお前が何も考えてないかくらいはな」


 睨み合う自分と優子の周りを、また死神がうろうろと歩き回る。自分の腕を引っ張ったり、優子の肩を掴んだりと、今度は顔色が真っ青だった。


「ちょっ、いやいやいや…ここでの揉め事は勘弁して下さいよ!?あんまり揉められると、現世に戻った時に記憶が混乱して大変になるんですから」

「…だったら、ワシをあの世に連れて行けばいいだろ」

「だ~か~ら!今井謙造さん、あなたは奇跡の生還を果たすって言ってんでしょうが!」

「ワシは、その奇跡の生還とやらを放棄する!そして、その権利を大窪さんに譲ってやってほしいんじゃ!」


 自分がはっきりそう言うと、死神や優子はもちろん、少し離れた場所にいる残りの人達も再び大きく息を飲み込んだ。


「大窪さん?それって、まさか…」


 死神が懐から何やら手帳のようなものを取り出すと、数ページほどめくり上げてから、「ああ、なるほど~」とうんうん頷いた。

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