第39話
「ひとまず、その手離してあげたら?死神さん、苦しそうだよ」
少女の言葉にはっと気付いてみれば、死神は顔を真っ赤にして両手をバタバタ動かしていた。息苦しいのか、口も魚のようにぱくぱく開いてかすかに呻き声まで漏れている。
あわてて、やや突き飛ばすような形で離してやれば、死神はゲッホゲホと咳き込みながらしゃがみこんだ。死神も苦しむのだな、と思った。
「やだ、ちょっとぉ。死神さん、大丈夫?」
少女も死神のすぐ脇にしゃがみ、その背中を二度三度と撫でてやる。それでようやく落ち着いたのか、死神は彼女の方を向いて、にっこりと笑った。
「ありがとうございます。やっぱりあなたは、名前の通り心優しい人だなぁ。あなたのような人こそきちんと生き返って、残りの寿命を全うすべきですよ」
「いや、それは別にいいってば…」
「ほら、今井謙造さん!あなたもこの子を見習って!いきなり死神に手を上げるなんて、失礼にも程がありますよ?いやマジで!」
対して、自分にはむうと唇を突き出して文句を言い出し始めた死神の顔を見れなくなって、ついそっぽを向いてしまった。
すると少女はそんな自分がやたら不思議にでも思ったのか、すっくと立ち上がって先ほどと同じ質問をしてきた。
「ねえ、何でそんなに死にたいの?」
「……」
「ねえ、何で?」
「…聞いてどうするんだ?君には関係ないし、そういう君こそさっき『別にもういい』とか言ってただろう?」
「別に?ただの興味本位?あと、あたしにはちゃんと優子って名前があるのよ」
ふふんと、偉そうに腕組みをしながら少女――優子とやらが答える。何だ、さっきから「別に」ばかり。もう少しマシな言い回しはできないのか。
そう思ったら、何故かこの子が美代子さんと重なるように見えて、腹が立った。自分は優子を見据えて、言ってやった。
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