第38話



「さあ、何をしている!?早くワシを死なせろ、早くしないかこの死神め!!」


 いつまでも自分達の周りをオロオロとうろついて、「ダメです、あなた方はまだ死ぬ時期ではありません」などと繰り返す死神の胸倉を思い切り掴み取って、自分はできるだけ大声を発した。


 当然、死神はびくっと肩を震わせてこちらをこわごわ見つめてくるし、残りの人達も大きく息を飲んで固まる。


 その中でも一番小さい男の子はそんな自分がよほど怖かったのか、「ひゃっ」と小さな悲鳴をあげて、少し離れた場所まで走っていってしまった。


 正直、胸が痛い。できる事なら正太や奈緒美があの子と同じ年頃になるまで…いや、もっともっと大きくなるまで一緒にいたかった。


 だが、せっかく得た機会を今逃したら、仮にこの死神の言う通りに生き返ったとしても、残りの人生はきっと後悔と苦悩に満ちたものでしかなくなる。


 そんな思いを抱えてあの家に居座るよりも、今のこの機会を活かす方が、ずっと…。


 そう、思った時だった。


「ねえ、おじいちゃん。何でそんなに死にたいの?」


 ふいに、背後から呆れ返ったかのような若い声が聞こえてきた。


 つい反射的に振り返ってみれば、肩越しに見えたのは一人の少女だった。


 どう見ても学生だ。高校生くらいか?今時の若者の格好というのは、全くよく分からん。何でああまで髪を派手な茶色に染めたがるのか…。


 だが、どこかで見たような気がした。いつ、どこでなどはさっぱり思い出せないが、確かにどこかで会ったような…。


 死神の胸倉を掴んだまま呆然としていたら、少女はゆっくりとこちらに近付いてきて、自分の両腕を無造作に指差してきた。

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