第35話

女主人から聞いた住所を頼りに、正治が自分を連れていってくれた場所は、あまりにも酷い有り様であった。


 辺り一面、煤けた嫌な臭いが立ち込めていた。元々は柱とおぼしき物はただの黒ずんだ炭と化して、まだどこかブスブスとくすんだ音と煙を立てている。


 それらが辛うじて一軒家の形を保っているのを、たくさんの人達が取り囲んで見ていた。消防士と警察の何人かが「危険ですので下がって下さい!」と大声で誘導している様が、自分にはとても信じられなかった。


「正治。本当にここで間違いないのか?」


 情けない、声が震えているではないか。もう一度、言った。


「本当に、ここが大窪さんの家なのか?」

「…ああ、間違いないみたいだ」


 少し小さい声だったが、それでもはっきりと答えた正治の言葉に、膝ががくがくと震え出す。そのままふらついてしまいそうになるのを、彼はしっかりと後ろから支えてくれた。


 何故だ?何故、大窪さんの家が全焼してるんだ?いったい、何があったんだ?いや、それよりもっと大事な事がある。大窪さんは無事なのか…?


 正治に支えてもらいながら呆然とそんな事を考えていた私の耳に、誰かしらの声が否応なしにやってきた。


「聞きました?放火ですって」

「え?私が聞いた話だと、漏電が原因だったって」

「いやいや、それが自殺の可能性もあるかもしれないってさ」

「何で?…ああ、そういえばここのじいさん、昔…」

「何にせよ、逃げようとした形跡がなかったようだよ?それじゃ、仕方ないよな」


 目の前が真っ暗になるとは、まさに今の事を言うのか。妻を亡くした時とほぼ同じ感覚が、自分を襲った。

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