第32話

あれから一週間ほど、自分は大窪さんと出会う以前の生活を送っていた。


 ウォーキングをやめてしまって、何をするでもなく日がな一日家の中でぼうっと過ごす。美代子さんからもらう五百円玉をビンに納めたら、カップ麺ばかり啜って自室で日が暮れるのを待った。


 外に出るのが、何だかためらわれた。どこかで軽快に走っている大窪さんと出くわしたらと思うと、とても外を出歩く気になれない。


 そもそもそうなった場合、どんな顔をすればいいのか。自分からあんな事を言い放っておいて、何事もなかったかのように笑顔で会釈などできるか。無視なら、なおさらだ。できる訳がない。


 そんな考えばかりが頭の中をぐるぐると渦巻いていて、億劫さがさらに色濃くなりつつあったある日の休日の事だった。


 昼を少し回ろうかという頃合いになって、正治が自室にいた自分へと少し遠慮気味に声をかけてきた。


「親父、ちょっといいか?」


 そう言う正治の背後から、美代子さん達のいる気配が感じられない。


 それを少し思いながら、返事がわりに見上げてみれば、正治はふふっと苦笑を滲ませてから答えた。

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