第26話

「お義父さん!お義父さんも少しは協力して下さい!ああいう時は、ハサミを使っちゃダメだとしっかり言っていただかないと…」

「大丈夫だよ、美代子さん。もちろん、最初から正太や奈緒美にハサミを使わせる気なんかさらさらなかった。ワシが切ってあげるつもりだったんだ」

「万が一って事もあるでしょう?今が大事な時なんです、一瞬の油断のせいで正太の人生を台無しにしたくないんです」

「台無しって…」


 そうは思えなかった。


 正太は、本当にいい子に育ってる。どこに行くにも奈緒美の手を引いてやるなど、しっかりと兄らしい思いやりや優しさを持ち合わせている。


 それでいいじゃないか、充分だ。この人は、何故それで満足できないのだろう。


 気が付けば、自分の口は勝手に動いていた。


「本当に、必要な事なのかね?」

「え?何がですか?」

「私立とやらに行かせたいんだよね、正太を。確かに、先々の事を考えればいい事なのかもしれない。でも、さっきの言葉は少し聞き捨てならないよ、美代子さん。仮に私立に行けなくなったからといって、それがどうして正太の恥になるんだい?」

「なっ…当たり前じゃないですか、そうでないと」

「恥ずかしいのは正太じゃなくて、美代子さん。あなた自身じゃないのかね」


 ここまで言うつもりはなかったのだが、驚くほど滑らかに、するすると言葉が出ていく。確信を得ていたからなのか、美代子さんに対する罪悪感もあまり湧いてこなかった。


 美代子さんは自分の言葉を聞き終えてちょっとの間、ぽかんと突っ立っていたが、やがてぶるぶると下ろしていた両腕を震わせ始め、詰め込んだ言葉を少しずつ搾り出していくように吐き出していった。

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