第25話

「ダメじゃないの、正太!そんな危ない物を勝手に出しちゃ!」


 美代子さんは、つかつかとした足取りで自分の部屋に入ってくると、正太の右手にあったビニール袋を半ば奪うように取り上げた。


 途端に、正太の口からひどく悲しそうな「あっ…」という小さな声が漏れる。奈緒美も母親の剣幕にさらに小さな身体をびくりと震わせた。


 美代子さんはその事に全く気付かないのか、まるで機関銃のごとく、次から次へと大声を発し続けた。


「正太、前にも言ったでしょ!もうすぐ大事な試験なの!手に怪我なんかして、偉い人達に悪く思われちゃったら、ダイちゃんやコウちゃんと同じ小学校に行けなくなるの!とても恥ずかしい事なのよ?それでもいいの!?」

「う…でもママ。僕ね、今はじぃじと遊びたくって…」

「ダメよ!遊ぶ暇があるなら、昨日買ってきた大事な絵本を読んでなさい!それから、ママだなんて呼ばないで!お母さんと言いなさい、お母さんと!」


 とても叱っている、しつけをしているというふうには見えなかった。


 例えるならば、まるで言葉の檻だ。お受験とやらがどれほど大事なものかは露と知らないが、美代子さんの口から飛び出る大声の言葉は、正太の周囲を容赦なく取り囲んで縛り付けていくようだ。


 事実、正太はひどくしょんぼりとしてしまって、「はい、お母さん…」と小さな小さな声で返事をしてから、自分の部屋を出ていった。


 訳が分からなくても兄の落ち込んだ様子が心配なのだろう、奈緒美もその後をついていく。そんな娘をちらりと目の端で確認した後、美代子さんがにらみつけるように自分を振り返って、さらに言い放ち始めた。

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